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2007-08-18 00:00
安倍訪印で問われる「価値観外交」の軽重
大江志伸
読売新聞論説委員
安倍首相は8月19日から25日まで、インドネシア、インド、マレーシアの三か国を歴訪する。焦点は無論、インド訪問である。情報技術産業の勃興を上昇気流に国民経済の離陸に成功したインドは、外交、軍事などの各方面での存在感も急速に増している。安倍首相のインド訪問には、御手洗経団連会長を団長とする約200人の経済ミッションが同行し、官民共闘の形で経済関係の強化に取り組む。つい数年前まで、希薄さが目立った日印関係に比べれば、隔世の感である。安部首相の訪問には、新時代を迎えた両国関係を再確認しあい、それを国際社会にアピールする効果も期待できる。参議院選挙で惨敗を喫して求心力低下に歯止めのかからない安倍政権にとって、浮揚力につながる数少ないチャンスでもある。首相の意気込みは相当なものであろう。
首相のインド訪問は、2005年4月の小泉首相以来、2年ぶりとなる。昨年12月には「ルックイースト」政策を掲げるマンモハン・シン首相が来日した。安倍首相との首脳会談では(1)日印関係が民主主義、自由、人権、法の支配などの共通の価値と幅広い共通の利益を基盤とし、最も可能性を秘めた二国間関係であることを確認、(2)両国関係を「戦略的グローバル・パートナーシップ」に引き上げることで合意、(3)その具体策となる首脳相互往来や経済連携協定の推進などを盛り込んだ共同声明の発布――という成果をあげた。今回の安倍・シン会談は、「基本的価値観を共有し、国際社会での存在感を急速に高めているインドとの関係はいっそう重要」との認識の下で、昨年12月に合意した「戦略的グローバル・パートナーシップ」の実質化を図る内容となる。
経済や文化交流を大規模に進め、テロ対策など安全保障や国際社会での協力策についても腹蔵なく話し合う。日印の新たな未来を開く建設的な協議は大いに結構だ。しかし、前回の首脳会談で安倍首相が打ち出した「価値観外交」は、本当に機能するのだろうか。
安倍政権は「価値観外交」の具体策として、日本、米国、オーストラリア、インドの4か国による戦略対話を推進してきた。5月下旬にはマニラで初の局長級会合を開き、大規模災害時の協力問題などを話しあった。日本政府は「好スタートを切れた」と自讃するが、実際にはインド、オーストラリア両国の消極姿勢が目立った。このため、次回日程すら決められなかったとの情報もある。8月上旬には、ライス米国務長官が訪米した小池防衛相と会談した際、4か国戦略対話について「中国に対して予期しないシグナルを送る可能性がある。慎重に進めるべきだ」と“助言”する一幕もあった。
安倍政権の「価値観外交」には、当初から「中国はずし」、「イデオロギー先行」との批判があった。政権発足から間もない段階では、電撃訪問による中国、韓国との鮮やかな関係改善への祝儀気分などもあって、「価値観外交」の実効性に対する論議は表面化しなかった。しかし、内政混乱による参院選大敗や慰安婦問題での対米関係のつまずきといった内憂外患は、安倍政権に「価値観外交とは何か」との説明を迫る状況を作り出しつつある。これが今回のインド訪問の隠れた重要テーマなのである。
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