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2022-03-08 00:00
(連載1)侵略直前に載った駐ウクライナ日本大使の挨拶文についての私見
中村 仁
元全国紙記者
ロシアのウクライナ侵略という情勢下で、各国の大使たちの活躍も報道されています。日本の駐ウクライナ大使は何をしているのだろうかと、日本大使館のホームページを覗いたところ、あまりの無神経さに驚きました。「日本国大使として、皆様と共に本年の天皇誕生日をお祝いできますことは、大きな喜びであり、光栄に思います」(2月23日付)という書き出しの挨拶文が目に飛び込んできました。ロシア軍の侵攻が迫っている直前に、この挨拶文をどういう判断で載せたのかと、絶句しました。
ウクライナの駐米大使は2月28日、「ロシアが燃料気化爆弾を使用」と、激しく非難したと外電が報じました。戦術核兵器の次に殺傷能力が強い爆弾で、ジュネーブ協定で禁止されています。ホワイトハウスは「事実とすれば、戦争犯罪になる」と指摘しました。この大使は3月1日、バイデン大統領の一般教書演説に際して議場に招かれ、「駐ウクライナ大使が今夜、ここにいる。可能な方は起立し、米国がウクライナの人々を支持することを示そう。独裁者は侵略の代償を支払う」と、激励を受けました。緊迫した国際紛争下では、現地の大使らの発言、行動が注目されます。在日ウクライナ大使も3月2日、林外相に面会し、日本からの1億㌦の緊急人道支援に感謝の意を伝えました。普段は舞台裏にいる外国駐在の大使の存在は、こうした時にクローズアップされます。
冒頭の挨拶文は天皇誕生日の2月23日に合わせて、掲載されました。天皇誕生日には、各国に駐在している日本大使はどこでも、祝賀の挨拶文を掲載し、情勢が許せば、相手国の関係者を招いてパーティを開くのが慣例になっています。ウクライナの松田邦紀大使の挨拶文には「国境周辺におけるロシア軍増強の動きを重大な懸念を持って注視しています」、「日本としてはG7をはじめとする国際社会と緊密に連携し、現下の情勢に適切に対応します」とも述べ、置かれた厳しい状況に触れることは触れています。
それにしても、前日の22日はゼレンスキー大統領がロシア軍による侵攻に備え、予備役を招集する大統領令に署名しました。国連のグレテス事務総長も同日、「近年で最大の危機」と発言しました。米国は欧州に米軍の派遣を始めていました。バイデン米大統領は「確実にロシアの侵攻が始まる」と、再三警鐘を鳴らしていました。実際にロシアの侵攻、進軍が始まったのは翌24日ですから、なんと間の悪いタイミングで天皇誕生日の祝賀挨拶を掲載してしまったのか。「ウクライナと日本は長い歴史を誇り、美しく豊な自然と文化に恵まれているという共通点があります」というくだりも、危機感がまるでなくひどすぎる。(つづく)
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