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2007-08-06 00:00
連載投稿(1)新渡戸稲造著『武士道』の現代的意義
木下俊彦
早稲田大学客員教授
昨年秋の安倍首相の中国訪問、本年4月の温家宝首相の訪日によって、日中間の氷は解け始めたといわれ、人的交流は増えだしたが、まだ、よそよそしいところが多い。「戦略的互恵関係」というのは、小異を捨てて、大同につくことだが、双方とも、異の部分が本当に小さいのか、水面下の部分まで入れると非常に大きいのかの判断がつかないからであろう。
それでも、いま、中国ではひそかな日本研究ブームで、日本の書物の売れ行きがよいという。その筆頭に来るのが村上春樹の作品で、日本書の中では史上最もよく読まれている由だ。大変結構な話だが、村上作品は、無国籍的で、どこか虚無的な感じがあり、現代の中国人の若者には、ぴたっと感覚があうとしても、それを丁寧に読んでも、日本への理解が進むということはないだろう。村上もそれを狙って書いているわけではない。ただ、興味深いのは、彼は、高校時代魯迅の書を愛読し、その書にはその影響を受けたと思われる部分があるとの指摘もある(藤井省三著『村上春樹の中の中国』〈朝日選書〉の書評、張競「東アジアで大人気の理由を読み解く」、『毎日新聞』2007年8月5日付を参照)。
それで、中国では日本理解の書というと、依然、新渡戸稲造の『武士道』とルース・ベネディクトの『菊と刀』という古典がベストセラーだという。前者は、表面的には理解しがたい日本人の行動様式を理解するのに役たつのであろう。後者は、日本の縦社会のルールの原理を明示し、日本人をうまく管理するにはどうすればいいか、というヒントが含まれているようだ(そういう目的で書かれた)。それより新しい著作ではノーベル賞受賞者の川端康成と大江健三郎の書物が続くという。
ところで、経済学を学ぶ人間は、講義の最初の方で、アダム・スミスという名に接し、以後、頻繁に使うことになるが、彼の書いた『諸国民の富(あるいは、富国論)』を通読した人にはとんとお目にかかったことがない。同様に、多くの日本人が新渡戸稲造の『武士道』を口の端に載せるが、実際に読んでいる人は意外に少ないのかもしれない。例えば、多くの人は原典が英語で書かれたことを知らないのだ。私は、和訳で勉強したので、あるとき一念発起して、原典を読み始めたが、あまりの難解さに途中で本を放り出してしまった。同氏の英語力はうまいなどという水準ではなく、英米の知識人も手を焼くのではあるまいか。(つづく)
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