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2021-10-27 00:00
米中関係「ミュンヘンの宥和」の懸念
倉西 雅子
政治学者
先の大統領選挙戦にあって親中姿勢が重大な懸念材料とされてきたバイデン大統領。ハンター氏疑惑も完全に解明されたわけではなく、同大統領の対中姿勢に疑いが燻っています。その一方で、大統領就任後のバイデン政権は、中国に対する姿勢を一変させ、トランプ政権の反中路線を継承しています。今では、対中包囲網形成に躍起となっているのですが、この姿勢、’本物’なのでしょうか。バイデン政権における対中政策への転換は、アメリカ国内にあって根強い反中感情の世論に応えざるを得なかったとする見解もあります。トランプ政権下で実施されてきた対中制裁の効果もなかなか上がらず、積み上げてきた巨額の貿易赤字も一向に減少する兆しは見られません。また、政治面を見れば、中国によるウイグル人弾圧や台湾に対する領土的野心は看過できる問題ではありません。バイデン政権の反中政策には、れっきとした理由や根拠があると言えましょう。
しかしながら、その一方で、最近に至り、米中関係には微妙な変化が生じてきています。どのような変化なのかと申しますと、それは、先鋭化する米中関係の緊張緩和を理由とした米中間の貿易交渉の再開です。政治面にあっては、中国は、習近平体制の下で軍拡を進めており、国民監視体制、並びに、情報統制体制が徹底されています。台湾危機も目前に迫っているとする見方もあり、予断を許さない状況が続いています。その高まり続ける緊張を和らげるバイデン政権による一手が、米中貿易交渉の再開、即ち、対中制裁の緩和であるというのです。
報道によりますと、制裁緩和の対象は、脱炭素といった米中両国が共通課題とする分野の製品に限定されるそうです。しかしながら、中国が太陽光パネルといった脱炭素関連製品の一大生産国である点を考慮しますと、制裁緩和は、全世界レベルの脱炭素政策と相まって莫大な貿易黒字を中国にもたらすことでしょう。このように考えますと、バイデン大統領は、表向きは対中強硬派を装っているものの実際のところは選挙前の見方のほうが正しかったということになるかもしれません。つまり、バイデン政権は、政治的対立を激化させる程、経済的な対中譲歩を平和の名の下でもっともらしく進めることができるのです。そしてそれは、不動産バブル崩壊の危機に直面している習体制に対して、アメリカが助け舟を出している構図にも見えてきます。
なお、対中融和策は、中国のみならず、チャイナ・ビジネスに携わるアメリカ企業、グローバル企業たっての要望でもあります。アメリカ国内では、制裁緩和の観測に対して歓迎の声が聞かれるそうですが、対中制裁緩和は、バイデン政権が説明する通りに平和をもたらすのでしょうか。これまでの中国の行動パターンからしますと、アメリカによる対中譲歩は、ミュンヘンの宥和の再来を思わせます。世界恐慌から第二次世界大戦期において、両陣営の対立の背後で巨額の利益を得た企業群の存在が指摘されていますが、日本国政府は、複雑な世界情勢を立体的な三次元構造の視点を以って分析すべきではないかと思うのです。
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