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2021-09-25 00:00
北朝鮮「列車ミサイル」誇示をどう評価すべきか
荒木 和博
拓殖大学教授
北朝鮮が大々的に宣伝している鉄道車輌から直接発射するタイプのミサイルですが、あれ、本物なのでしょうか。鉄道に詳しいであれば結構疑問を抱いた人がいたのでは。以下素朴な疑問を並べてみます。既にネットで指摘されている人がいるかもしれませんが、他にお気づきの点があれば御指摘いただけると幸いです。
1、ミサイルはその発射時に極めて大きなエネルギーを発射台に掛けます。積載する車輌も線路もそれに耐えうる設計にしなくては、激しく損傷し二度と使えなくなります。仮に1発撃てたとしても、もう1発が発射できないということです。そう考えると、2発並べて順番に撃つなどというのは信じ難い離れ業です。もしこれを実現しようとしたら、1発ごとに1輌ずつ使い捨てするのが常識的な選択でしょう。ちなみに昔ドイツなどで「列車砲」というのがありました。大砲を列車に積むものなのでミサイルとは異なりますが、車輌や軌条に大きな負荷がかかる点では同じです。実戦に投入された列車砲がどのような設計をされている必要があったのか、ネットでもすぐにその造りがどの程度堅牢であったのかわかるので見てみるといいでしょう。これと比べてみると、北朝鮮が宣伝した最新兵器が、外見からしてすでに不自然であることは素人でも分かります。今回のものに一番近いのは旧ソ連の時代列車に弾道ミサイルを載せたRT-23というものです(ネットで調べるとサンクトペテルブルクの鉄道博物館に展示されているそうです)。それと比べてもなんだかなあ、という感じです。ミサイルを積載していた貨車の台車は普通の貨車の台車でした。旧国鉄のTR63とか、あんなのを大きくした程度のような感じに見えます。通常の2軸の台車が二つ付いただけです。これでミサイル発射の衝撃に耐えられるとは思えません。北朝鮮には「百トン貨車」という金日成時代に思いつきで作った、2軸台車が四つ付いた、文字通り「無用の長物」があるのですが、これが使われたわけでもありません。ミサイル発射で立ち上げた側の台車の、しかも2本並べているのですから衝撃は特に車輪2輪に集中して掛かるわけで、まともに撃ったなら車両が脱線しない方がおかしいと思います。
2、もともとミサイルは地下の発射施設から撃つ場合でも1発撃つとその施設は使えなくなるので、そうしないためには一旦圧縮空気で打ち上げて、それから点火するやり方が使われるようです。今回のミサイルは最初から火が付いていますから、まあ通常考えれば車輌も線路もめちゃめちゃになっているでしょう。線路もどんなに整備していたとしても、見た感じは普通の砂利を敷いた道床の上にコンクリート枕木を置いて、それに普通のレールを敷いた、要は普通の線路です。ミサイルを発射してもびくともしないほどしっかりしているのなら、世界中の鉄道の保線の専門家はこぞって北朝鮮に教えを請うべきではないでしょうか。
3、画面には架線柱らしきものが見えます。とすると電化区間で架線を外してやったということでしょうが(機関車はディーゼル機関車なので)、これまたえらい無駄です。非電化区間もいくらでもあるのに。
フェイクとまで断定はできませんが、北朝鮮が空中からの映像やあちこちからとった映像を公に発表したということは、逆に言えば少なくとも額面通りではないということです。あれをもって脅威が高まったと心配する必要はないと思います。あんなことをやるためにまた相当な資源の無駄遣いをして、人民軍の一般部隊はさらに戦闘能力が低下しているでしょう。ミサイルだけで戦争はできません。
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