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2021-07-29 00:00
(連載2)ウイルス発生源‐疑惑視される武漢研究所
斎藤 直樹
山梨県立大学名誉教授
この間、様々な憶測や推測が駆け巡っている。専門家の中には新型コロナウイルスが中国科学院武漢ウイルス研究所で人工的に製造されたのではないと疑問視する見方もある。また長年にわたり米国立アレルギー・感染症研究所 (NIAID) 所長を務めてきたファウチ(Anthony Fauci)氏は武漢ウイルス研究所からのウイルス流出説に否定的であり、トランプ政権時代にトランプ氏としばしば対立したが、そのファウチ氏が所長を務めるNIAIDがこれまで武漢ウイルス研究所に資金援助を行ってきたことが表ざたとなり、米国内で猛烈な批判に曝されている。さらに中国情報機関の高官が新型コロナウイルスに纏わる武漢ウイルス研究所の機密情報を携えて米国に亡命したとの情報も流布されている。同研究所に疑惑の目が集中し出すと、前述の趙立堅氏は同研究所にノーベル賞を授与すべきであると反駁したのである。
こうした状況の下で、これまで事あるたびに中国寄りと思われる姿勢を続けてきた感のあるテドロスWHO事務局長が突然、心変わりしたのではないかと思われる発言を行うに至った。7月15日にテドロス氏はウイルスが武漢ウイルス研究所から流出した可能性を排除するのは時期尚早とし、中国当局に一層の透明性、開放性、協力を求めると語った。この発言は習近平指導部に阿ってきた感のあるテドロス氏の従前の姿勢から多少なりとも逸脱したものであった。WHO調査団はこれまで残念ながら生データを中国側から提供されていないとし、「感染拡大の初期における情報や生データについて中国に対し透明性、開放性、協力を求める」とテドロス氏は語った。しかもテドロス氏によると、ウイルスが同研究所から流出したとみる仮説を排除するよう求める圧力があったとのことである。もしテドロス氏が言うとおり圧力が実際にあったとすれば、これは重大なことである。しかも前述の3月30日公刊の「WHO報告書」は研究所から流出した可能性は極めて低いと論じ、テドロス氏もこれに同調していた。
ところが、そのテドロス氏が「私自身が検査技師であり、免疫学者であり、研究所で働いていた経験があるが、研究所で事故が発生したこともある」と述べた。同発言はウイルス感染が研究所内での事故の結果であるという可能性は排除できないと示唆したものである。その上で、テドロス氏は、「研究所で何が起きたか精査することが重要である」とし、「感染拡大の前後における実験室の状況に関する直接的な情報が必要であり」、そのためには中国の協力が不可欠であると力説した。テドロス氏の言わんとすることは、完全な情報が提供されれば、実験室との関連は排除できることになる。こうしたテドロス氏の発言に対し、間髪入れずに趙立堅氏は猛反駁に転じた。趙立堅曰く、「すべての当事者は問題を政治化するのではなく、科学者の意見と科学的結論を尊重する必要がある。・・2021年3月にWHOはWHOと中国の共同研究による報告書を発表した。この報告書で、実験室から流出した可能性は極めて低い一方、輸入冷凍食品を通じた感染を重視する必要があるとの結論に達した」と居直ったのである。趙立堅氏によれば、ウイルスの発生源を実験室に結びつけようとするのは政治的な動機に基づいたものであり、感染は外国で始まった可能性がある。
ここにきて、これまでしばしば習近平指導部の機嫌を窺ってきた感のあるテドロス氏までが武漢ウイルス研究所からウイルスが流出した可能性が排除できないと論じると、今度は習近平指導部の批判の矛先がそのテドロス氏に向かい始めたことは皮肉なことである。テドロス氏の突然の心変わりの背後にどのような動機があったのか不確実であるとは言え、同氏の心変わりにより習近平指導部は有力な支持者を失ったと言えるのでなかろうか。今後、武漢ウイルス研究所からウイルスが流出したことを裏付ける決定的な証拠が提示されるかどうか不確実であるとしても、多くの専門家は同研究所から流出した可能性を真剣に疑い始めている。習近平指導部は真っ向から否定しているものの、外部世界の目は一層厳しくなっている。バイデン氏の要請に基づく報告の公表が待たれるところである。報告の内容如何では米中の対立は引き返すことのできない厳しい対立に発展する可能性がある。(おわり)
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