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2007-07-26 00:00
ASEAN憲章とAPU東アジア・ラウンドテーブル
安江則子
立命館大学教授
6月2日から4日にかけて、立命館アジア太平洋大学(APU)において、外務省とASEANの協賛で、「東アジア・ラウンドテーブル2007」が開催された。ASEAN事務局関係者をはじめ、東アジア各国の政府関係者、財界関係者、ジャーナリスト、研究者など多彩な顔ぶれで、”Community Building in Diversity”をテーマに、アジア地域の共通の未来を議論する貴重な機会となった。
ASEANの40周年とAPUの10周年を記念するラウンドテーブル初日のオープン・セッションでは、交渉の最終段階に入ったASEAN憲章について、ASEAN事務局の担当者から説明があった。ASEANが制度化に向けて動き出すとともに、ASEAN史上初めて「人権」が共通理念として掲げられるという。もっとも、欧州のように法的規範性のある人権条約ではなく、将来的に人権裁判所が設立されるわけでもない。意思決定におけるコンセンサス・ルールも維持される。けれども、重層的に発展するアジアの地域圏の中核として存在感を強めたいASEANにとって、憲章の採択は新たな一歩を意味する。
憲章の作成に携わるASEAN事務局の担当官の一人、カンボジア国籍の女性は、あの悲劇的な時代をくぐり抜けたアジアの新しいエリートである。ASEAN事務局には、西欧や旧共産圏で教育を受けた様々な背景をもつ人材がおり、そういうリーダーがアジアの地域主義の一翼を担っている。「偏狭な意味での」ナショナリズムを克服し、平和と繁栄の共同体を創出するという、欧州統合の開始時とも共通する意気込みが感じられた。経済成長による自信を背景としながら、単に短期的な利益の追求にとどまらず、ピア・プレッシャーによる自律的な共同体形成をめざす姿勢が印象的だった。
ラウンドテーブル2日目の専門家会議では、(1)メガ・インフラ(空港など)の発展、(2)環境マネジメント、(3)文化交流、(4)国境を越える人の自由移動をテーマとした各セッションで議論が行われた。3日目には、APUの学生を交えた世代間交流が催された。世界75カ国以上の国々からの留学生を受け入れるAPUならではの企画であった。
またこれとは別に、7月には都内の大学の研究所が、「東アジア憲章」構想を提案した。このグループは、私と同じくEU研究者たちであるが、アジアの現実に根ざして、既存の条約や合意などの蓄積を周到に踏まえた提案がなされた。法律家のグループという制約はあったが、東アジア地域主義の制度化への試案として面白く、東アジアの動向は、広範な研究者の知的好奇心を刺激していることを再認識した。アジア地域圏の将来について研究者による議論は一層さかんになるであろうが、この問題に関しては、純粋に学術的なアプローチに留まらず、外交・通商の現場にいる政府担当者や、アジアのダイナミズムの渦中にある経済界との十分な情報交換に基づく専門横断的な発想が求められよう。
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