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2021-07-02 00:00
(連載2)米国市民社会の危機
大井 幸子
国際金融アナリスト
今後「立ち退き」が強制的に実施されると、ホームレスの増大が予想されます。そうなると、様々な社会問題が出てきます。例えば、カリフォルニア州の風光明媚で有名なベニス・ビーチでは、すでにホームレスがビーチや歩道を占拠し、ホームレス・コミュニティが形成され、街の観光や治安に深刻な支障が出ています。ニューヨークポストや多くのメディアが、ベニス・ビーチの「ホームレス・クライシス」を取り上げ、こうした危機は他の多くのコミュニティでも起こりうると警告しています。
ホームレス増大は、米国の市民社会の危機です。「自らの労働力以外何も失うものがない」、マルクス主義でいう典型的なプロレタリアート(無産市民)が大量生産されています。これまでマイホームを持つことが「アメリカン・ドリーム」でした。移民の人たちは一生懸命働いて家を買い、家族で暮らせること、豊かになることを夢見て努力してきました。努力すれば報われる、これが「アメリカン・ドリーム」であり、誰にでもそのチャンスが与えられる。これが、米国市民社会の「社会契約」だったはずです。「マイホーム」は、労働者階級(無産市民層)から中間階級(市民層)への仲間入りを果たすメルクマールです。米国では、ジャクソンデモクラシーの頃から、広範な中間階級が形成され、彼らが勤勉さと道徳心を持って働くことで資本主義経済が成長し、コミュニティが発展し、市民社会の秩序が保たれてきました。
ところが、これから若い人たちがマイホームを持とうとすれば、住宅ローンを皮切りに、自動車ローン、子供の学費ローン、個人消費のためのクレジットカードローンなど、多くの借金を背負わなければなりません。驚くべきことは、若い世代だけでなく、60歳を過ぎても学費ローン返済に追われている人も少なくないことです。なぜ20年も30年も、返済が終わらないのか?借金は元本に利息がついて複利で増えていくため、いったん失業などで収入が途絶えると、借金だけが恐ろしい勢いで増え続けていきます。気が付いたら一生、借金漬けになってしまう。多くの普通の米国人にこんな悲惨な状況が報告されています。
バイデン政権は数々の大規模経済政策を打ち出していますが、コロナ禍で貧富の格差はますます拡大しています。その過程で、ホームレス・クライシスはコミュニティの崩壊、無法地帯での犯罪や暴動の蔓延を引き起こし、市民社会そのものを壊していきます。米国政府、米国市民はこの危機にどう立ち向かうのでしょうか?(おわり)
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