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2021-04-07 00:00
ふたたび自由と専制の戦いになる
伊藤 洋
山梨大学名誉教授
「米中、体制間争い鮮明に 『民主主義と専制主義の闘い』 バイデン氏、就任後初会見」の見出しで、バイデンアメリカ大統領就任後初の正式記者会見の要旨が報道されていた。曰く「氏は、中国国内の人権弾圧問題などを指摘したうえで、米中対立について『21世紀における民主主義国家と専制主義国家の有用性をめぐる闘い』と表現。バイデン氏は国家理念を旗印に、体制間による競争を鮮明にした」。
どうやら新しいタイプの新冷戦の復活である。その相手は、第二次大戦後の元祖世界冷戦時のコンペチターのソ連に替わって習近平の中国である。記事の中でバイデン氏は、「中国との競争に勝つためには、①米国の労働者や科学技術分野への投資を拡大、②欧州や日米豪印(クアッド)など同盟国・友好国との関係強化、③中国国内で起きている人種弾圧に対し、世界各国の注意を喚起」を実行していく考え」(2021/03/27朝日新聞)、とある。20世紀後半の半世紀、世界の先進知識・科学技術をけん引してきたアメリカの、いま斜陽の長い影を引き始めたこの時機に、もはや米国一国でその先頭を維持することはできないという独白を裏書きしつつ述べたものでもある、と筆者はこの記事を読んだのである。
分けてもQUAD(日米豪印戦略対話)4か国を敢えて挙げていることからも、対中国への競争にヨーロッパは頼り難くなっている歴史的な状況も裏側に見えて、この世紀の世界の力学が大きく変わり始めていることを肌で感じざるを得ない。それにしても、日本への期待は少々過剰ではないかと思わざるを得ない。バイデン氏には暗黙の裡に中国やロシアの非民主主義的圧政体制への批判意識が含まれている。それはとりもなおさず、先進知識技術革新は民主主義的自由な思想環境の下でのみなされるという伝統的考え方が基本になっている。そういう中でQUADを見たときに、他の3国はともかくも、この日本では菅政権が学術会議の議員任命にロクな説明も無いままに任命拒否に固執している。こういう戦前回帰のような権力行使は非民主的圧政体制との競争に相応しいとは断じて言えない。
菅首相は、近々渡米して日米首脳会談を開くという。この際、よくよくバイデン氏と腹を割って、氏が先進知識技術競争への勝利の道筋についてその思想的バックグラウンドを訊いて学んできてもらいたい。帰国後ただちに過ちを認めて自由で開かれた学術環境を回復してもらいたい。それこそが「専制国家=中国」に勝つための必須の環境づくりだからである。
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