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2021-03-27 00:00
(連載1)WHOの武漢現地調査と深まる謎
斎藤 直樹
山梨県立大学名誉教授
これまで武漢市での現地調査の実施を巡り、WHOと習近平指導部の間で激しい綱引きがあった。2020年7月中旬に2名のWHO調査団が先遣隊として中国に派遣されたが、北京に留まっただけで多くの失望を買った。その後、2021年1月から2月にかけて実施されたWHO調査団による武漢市での現地調査は中国側の都合から大きな制約を受けた一方、思いがけない発見につながったとも言える。これは必ずしも事前に予想されたものではなかった。これまでの経緯について概説すると、中国当局は武漢市で新型コロナウイルスの感染が拡大し始めた当初から同市の華南水産卸売市場がウイルスの発生源であると決めてかかっていた。2020年1月27日に中国疾病予防管理センターは「2019年新型コロナウイルスの感染状況とリスク評価」と銘打った報告書を発表した。それによると、新型コロナウイルスは野生動物に由来する可能性が高い。感染経路については、2019年12月初めに同市場において野生動物からウイルスが漏洩し、それが市場を汚染し、続いて人に感染し、最終的に人から人への感染を起こしたのではないかと推論した。しかし、これを裏付ける確実な証拠と言うべきものが提示されていなかった。2020年1月9日に中国当局は新型コロナウイルスのゲノム情報を開示した。これにより、新型コロナウイルスがSARSコロナウイルス(SARS-CoV)と極めて類似していることが明らかになった。これまでの研究により、SARSの自然宿主はキクガシラコウモリであると推察された。こうしたことから、新型コロナウイルスを運んだ自然宿主もキクガシラコウモリではないかと疑われたが、同市場で売買された事実はなかった。
こうしたこともあり、同市場が感染拡大に重要な関りを持つとしても、市場が発生源であると特定できなかった。実際に今回の現地調査のWHO調査団長を務めたエンバレク(Peter Ben Embarek)氏は2020年5月8日の時点で、同市場が感染拡大に関連し重要であるが市場が発生源であるかどうか不明であると発言していた。この間、新型コロナウイルスの発生源としてにわかに疑惑視されたのは武漢市にある二つのウイルス関連研究所であった。一つは同市場に近接した「武漢市疾病予防管理センター」である。もう一つは、武漢市郊外に位置する「中国科学院武漢ウイルス研究所」であった。いずれもSARSコロナウイルスの研究を行っており、多数のコウモリを保有していた。武漢市がウイルスの発生源であり、その武漢市にSARSコロナウイルス研究を行っている研究所が二つもあり、しかもいずれの研究所もキクガシラコウモリを保有していたことから、これらの二つのウイルス研究所が新型コロナウイルスの発生源として疑われるのは自然の流れであったと言える。
前者の研究所の可能性は広東省の華南理工大学の肖波涛(Xiao Botao)教授らによって提起された。「武漢市疾病予防管理センター」は問題の市場からわずか280メートルという至近距離に位置する。しかも、同センターが近年、捕獲したとされるコウモリの中にはキクガシラコウモリも含まれていた。同センターの研究員はコウモリの血液や尿が皮膚に付着したという経験があった。感染のリスクを恐れた研究員は自主的に隔離措置を講じたとされる。こうしたことから、同ウイルスが何らかの原因でセンターから外部に流出し、人に感染した可能性があると肖波涛は推論したのである。トランプ政権は後者の「中国科学院武漢ウイルス研究所」の可能性を疑った。事の発端となったのは『ワシントン・ポスト紙』の2020年4月14日の報道であった。それによると、2018年1月に在中国米大使館の専門家達が「中国科学院武漢ウイルス研究所」を訪問したことに遡る。その際、専門家達はコロナウイルスに関する研究を行っていた「実験室」での衛生管理や安全対策が極めてずさんであるとする公電を2018年1月に国務省に通知していた。しかもコロナウイルスがどのように人に感染するかに関する研究が行われているが、そうした研究は新型のSARSのようなパンデミックを引き起こしかねないリスクがあると警告する内容であった。これこそ、新型コロナウイルスのことを意味するのではないかという疑問を生むことになった。
トランプ政権はこの可能性に飛びついたが、米国政府の情報機関は決定的な証拠はないと、ぼかした結論を示した。4月30日の米国家情報長官室(ODNI)の発表によると、「情報機関は感染した動物との接触により感染が始まったか、あるいは武漢市の実験室での事故の結果によるものであったかどうかについて判断するためウイルスの発生に関する情報を引き続き厳格な精査を続ける」と結論づけた。これに対し、中国当局は断固この可能性を否定してきた。ところで、今回の合同調査団は17人のWHO専門家と17人の中国専門家から編成された。WHO調査団の武漢市での現地調査の主たる目的は新型コロナウイルスの発生源はどこなのか特定することであった。とは言え、今回の現地調査でこれといった発見には至らなかった。現地調査が中国側の協力を得て行われたこともあり、調査は終始中国側の都合に従い進んだと言える。実際にWHO調査団は中国側の協力なしには調査が進まないことを踏まえ、中国側のご機嫌をうかがうかのように行動した。1月14日に武漢市に到着したWHO調査団は二週間の隔離を経て、その後現地調査に移った。この結果、現地調査が実施できたのは二週間程度であった。中国側の狙いはウイルスの発生源でないかと疑われている武漢市での現地調査に正々堂々と応じることで、これまで外部世界から向けられてきた厳しい批判を払拭することであった。疑惑は晴れたとの印象を中国側は与えたかったのであろうが、実際はどうであったか。(つづく)
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