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2020-12-14 00:00
中国におけるクリスマス
中山 太郎
非営利団体非常勤職員
間もなくクリスマスだが、知り合いの中国人学者に、最近の中国の知識人層の若者の愛読書を聞いたところ、意外にも聖書という答えを得た。クリスマスにも教会へ行きミサにあずかる若者も多いそうだ。司馬遼太郎が、夏目漱石の本の中で「三四郎」を推薦していたのを思い出した。読まれた方はご存じだろうが、ストレイシープ、「迷える羊」というフレーズで有名な青春小説だが、聖書、キリスト教の一つの解説書でもある。明治の若者は西洋文明を必死に学ぼうとしたのだ。それには西洋文明の根幹をなしている聖書の世界、キリスト教の世界の理解が必須だったのだ。
共産主義、専制国家中国の人々は、我々自由主義民主主義国の人間と比べ、意外と真面目に何事も取り組みがちなのだ。共産主義思想の枠組みが崩され、思想の喪失に一種の疎外感を抱く多くの中国人は、人生に意味を見出そうと宗教の世界に深入りしているのだ。今やキリスト教の本場の西欧社会においても教会離れが進んでいると聞く。フランシスコ教皇の前任者はドイツ人だが、通常死ぬまで続ける任期を、異例にも途中で今の教皇へ引き継いだ。南アメリカ、アルゼンチン出身だ。カトリックに詳しい専門家の話では、信者が西欧では減りつつあり、今や南アメリカが大所であり、これからはアジア、特に人口の多い中国、インドでの信者開拓を目指す流れでもあるようだ。ちなみに他のアジアでは韓国に500万、フィリピンが9千万人以上と言われる。
文韓国大統領夫妻はカトリック教徒であるし、米のバイデン大統領もカトリックだ。日本の戦国時代、信長のころ、日本へ布教に来たイエズス会のフラシスコ・ザビエルは有名だが、彼らの布教で九州を主に大名、庶民約30万人以上の信者数だったそうだ。明智光秀の娘の細川ガラシャは有名だ。信長は、部下の細川藤孝の子・忠興と明智光秀の娘・玉子を「至極妥当、かつ幸せな結婚になるだろう」と言って祝福し結び付けた。その後のことはご存知の通りだ。そして日本におけるカトリック教徒についても、秀吉、家康の時代には、弾圧が始まるのはご存知の通りだ。ザビエルはその前に、日本の布教を成功させると、より大きなマーケットの中国を目指し、今の広東省の近くの島、川上島で、中国皇帝に入国と布教の許可を待っていた時、病に倒れ亡くなった。フランシスコ教皇はザビエルを目指しているのだ。中国のキリスト教徒数は、プロテスタント約一億カトリック1千万人以上と言われ、明、清時代はカトリック信者のみだったので、焦りがあるようだ。前者がおおくなってきているのは、米のプロテスタントの組織の力だ。
中国は宗教も国家の厳しい管理下に置き、キリスト教についても愛国教会を定めている。それに反抗するように地下教会がかっては人気を得ていたが、バチカンは、北京政府と水面下での交渉を重ねつつあり、地下教会を切り捨て愛国教会にすり寄り、中国政府の任命した幹部聖職者たる司教を、異例にも全世界で中国に限り中国政府の任命を認めることに決めたようだ。これに対し、台湾、香港のカトリック教会は恐慌をきたしているとも聞く。EUの中で唯一、今まで台湾と国交を結んでいるバチカンが、ある日、中国へ切り替えるということがあり得るのだ。今まで誰もが、水と油のように決して交わることはないと思っていた世界が、一転する世界なのだ。今の世界情勢は日本人の苦手な複雑怪奇極まりなくなっているのだ。ちなみに漱石の「三四郎」に、日露戦争での日本勝利に触れ、人々が沸き立つ中で、老先生が「日本はこれで滅びる」と述べるのは、今から見ると、感性の研ぎ澄む一流の作家の一つの予言とも思える言葉だ。
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