ホーム
新規
投稿
検索
検索
お問合わせ
本文を修正後、投稿パスワードを入力し、「確認画面を表示する」ボタンをクリックして下さい。
2020-11-18 00:00
(連載1)パンデミックを引き起こした中国の初動対応の瑕疵
斎藤 直樹
山梨県立大学名誉教授
新型コロナウイルスに感染した最初の患者が見つかったのは2019年12月1日であるとされる。その後、テドロスWHO(世界保健機関)事務局長が1月30日に「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」宣言を行い、3月11日に「パンデミックとみなせる」と宣言したときにはすでに手遅れであった。2019年12月上旬から2020年1月20日頃までの期間において新型コロナウイルスへの初動対応に重大な瑕疵があったことは明らかである。この期間を時系列に概観し、初動対応の瑕疵について考えてみたい。2019年12月上旬に武漢市の多くの病院に発熱など体調の異変で多数の患者が押しかけた。そのうち、金銀潭医院で最初の入院患者が発症したのは2019年12月1日であるとされる。このことは2020年1月24日に医学誌『ランセット(
The Lancet
)』に掲載された論文(“Clinical features of patients infected with 2019 novel coronavirus in Wuhan, China.”)「中国の武漢市において2019年の新型コロナウイルスに感染した患者の臨床的特徴」で言及されている。同論文をまとめたのは同病院の黄朝林(ハン・チャオリン)医師を筆頭とする複数の医師である。同論文によると、1月2日までに同病院に入院した41人の患者が新型コロナウイルス(2019-nCoV)に感染していたと特定された。そのうち、27人がウイルスの発生源ではないかと目された武漢市の華南水産卸売市場との関連が疑われた。他方、その他の14名の患者は同市場には出入りしておらず、その感染経路については不明であった。また12月1日に出たとされる最初の患者も市場と関係がないとみられている。最初の患者の記載を含め『ランセット』掲載論文が事実関係に即して書かれたものであるか必ずしも明らかでない。最初の感染者が11月の段階ですでに出ていたとの推察もある。
この間、武漢市の他の病院にも多くの患者が殺到した。こうした中で12月30日にある医師がSNSを通じ医師仲間達に発信した。この医師とは武漢中心医院の眼科医の李文亮(リー・ウェンリャン)氏であった。同日、李文亮氏は医師仲間達に「華南水産卸売市場の7人がSARS(重症急性呼吸器症候群)と確認された」と伝え、感染を防ぐために防護服を着用するよう助言した。しかし李文亮氏が気づいていなかったのはこの感染症がSARSではなく新型のコロナウイルスであることであった。ところで李文亮氏の助言は患者の治療に際し医師仲間達に注意を喚起したものであった。ところが、武漢市公安局は李文亮氏の書込みを看過できないと判断した。数日後、李文亮氏は武漢市公安局に呼び出され、叱責された。公安当局は李文亮氏に「我々はあなたに厳粛に警告する。頑なに無礼な振る舞いを続けたり、こうした違法行為を続けるのであれば、あなたは裁かれることになるだろう。わかったか」と警告を鳴らした。李文亮氏は「社会秩序を著しく乱した」と書かれた「訓戒書」に署名するよう指示された。李文亮氏は仕方なく従った。しかし、公安局からの呼出しから1週間後、医療現場に復帰した李文亮氏は緑内障の患者を治療した際、新型コロナウイルスに感染していた患者から感染したとされる。その後、2月7日に李文亮氏は同ウイルスに起因する肺炎で死亡した。
12月30日に武漢市衛生健康委員会は医療機関に向けて「原因不明の肺炎の治療に関する緊急通知」を配信した。それによると、武漢市の病院で原因不明の肺炎の症例が多数みられるが、感染者は華南水産卸売市場と関係があると考えられるというものであった。ところが、この内容がインターネットで一気に拡散してしまった。31日に中国国家衛生健康委員会の専門家グループが武漢市を訪問した。同委員会は肺炎患者の多くが華南水産卸売市場となんらかの関わりがみられるとの所見を述べた。また31日にWHO中国事務所は武漢市で原因不明の肺炎の感染者集団が見つかった旨の報告を中国当局から受けた。それによると、12月31日から2020年1月3日までの4日間に44名の肺炎患者が確認されたとある。ただし、これはあくまで中国当局によるWHO中国事務所への報告であることを踏まえる必要があろう。さらに31日に感染症の発生源でないかと疑惑視された華南水産卸売市場に多くの防疫係官がやってきて市場の消毒を行った。翌日の2020年1月1日に同市場は閉鎖された。
この時点で、中国共産党中央が事態の推移を把握していなかったと思われがちであるが、1月7日に中国共産党政治局常務委員会議が開催され、習近平国家主席は席上、新型コロナウイルスの感染拡大の阻止に全力を挙げるよう強く求めたとされる。このことはかなり早い時点で、習近平氏が同ウイルスの存在を掴んでいたことを意味する。1月9日に中国当局は新型コロナウイルスのゲノム情報を開示した。これにより、新型コロナウイルスが2002年から2003年にかけ中国で猛威を振るったSARSコロナウイルス(SARS-CoV)と極めて類似していることが明らかになった。1月9日に中国国営中央テレビ(CCTV)は中国疾病予防管理センターによる「武漢ウイルス性肺炎病原体検査結果の専門家の初期評価」に従い、新型コロナウイルスが確認されたと伝えた。続いて1月11日に武漢市衛生健康委員会は1月9日に新型コロナウイルスに起因する死者が出たことを伝えた。(つづく)
投稿パスワード
本人確認のため投稿時のパスワードを入力して下さい。
パスワードをお忘れの方は
こちら
からお問い合わせください
確認画面を表示する
記事一覧へ戻る
東アジア共同体評議会