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2007-07-07 00:00
アメリカの公的記憶と東アジア
滝田賢治
中央大学教授
6月26日、アメリカ議会下院外交委員会は、第2次大戦中の従軍慰安婦問題を巡り、日本政府に責任を認めて公式に謝罪することを求めた決議案を採択した。決議自体に法的拘束力はないが、民主党のペロシ下院議長は同決議案に同情的といわれ下院本会議に掛けられ可決される可能性が高まっている。6月30日には久間防衛相が「原爆投下はしょうがなかった」と発言して日本世論の反発を買う中、ブッシュ政権の一部からは原爆によって戦争が終結したので米兵と日本人の多くの生命が救われたのだという発言も飛び出した。
アメリカのこのような行動・発言にはどのような背景があるのであろうか。3月初旬、滞在先のワシントンDCからの投稿「従軍慰安婦問題と日米関係の歴史的文脈」(『百家争鳴』2007年3月8日)では、こうしたアメリカの反応には、対日占領政策を含む戦後対日政策全般の正当性が問われているという意識が存在していることを強調した。これをさらに広い視野から見ると、このアメリカの反応は、アメリカ人の、とりわけアメリカのパワー・エリートのアイデンティティと密接に関係しているのである。
歴代大統領はしばしばアメリカは移民の国であることを強調する。そしてアメリカ人ばかりか多くの人間がそうだと思い込んでいる。しかし現実には、インディアンと呼んだ先住民族の広大な共同生活空間をヨーロッパ人が侵食し、侵略し、そこを「新世界」と名づけて「想像の共同体」としての「国民」による、自由と民主主義を基盤とした「国民国家」を擬制的に作り上げていったのである。現ブッシュ大統領はその就任演説で「アメリカはその成立が明らかな唯一の国家である」ことを誇らしげに強調したが、それはアメリカが先住民族の伝統的領域を侵食した人工国家であることを示したことになる。3千年・4千年という長大な時間をかけて形成された天然国家であるならば、多くの場合、国家成立のロマンに満ちた神話が存在し、それを非科学的と批判しつつも漠然と自己のルーツやアイデンティティをその長大な時間の流れの中に「感じる」ものであるが、アメリカにはそれがないのである。
「成立が明確な」人工国家で、擬似的「国民国家」であるアメリカは、それを国家成立の基盤と信じ込まされてきた自由と民主主義に求めざるをえないのである。独立戦争や第1次大戦、第2次大戦への参戦と勝利は、建国の基盤である自由と民主主義についての公的記憶となっているのである。「中国をはじめとする東アジア諸国を救出するために戦った」第2次大戦中の(アジア)太平洋戦争も、アメリカ人としてのアイデンティティを保証する輝かしい公的記憶なのである。従軍慰安婦問題や原爆投下の否定はアメリカのパワーエリート達の精神的基盤である公的記憶の否定に他ならないのである。
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