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2020-10-30 00:00
(連載2)米大統領選直前世論調査を読み解く
斎藤 直樹
山梨県立大学名誉教授
そうなれば、トランプの選挙人獲得数は16人上積みされ、計274人となり過半数を超える。同氏の予想では、ラストベルト3州とミネソタはいずれも大接戦であり各州に割り当てられた選挙人の行き先は今後の選挙戦いかんで決まることになろう。同氏はトランプの最終獲得数が270台後半か、それより上積みされたものになるであろうと予想した。加えて、Cahalyは各予想調査がなかなか実勢を反映しない主な事由は「隠れトランプ(“hidden Trump”)」支持票の存在であるとして、多くの場合、調査機関の予想調査に「隠れトランプ」支持票が組み込まれていないと指摘した。同氏は同業者である他の調査機関をかばうかのように、様々な事由から調査機関の予想調査に参加しようとしない人たちが「隠れトランプ」支持者の大部分であり、彼らを吸い上げる形の世論調査を行わなければならないとした。言葉を変えると、それを行ってきたが“Trafargar”ということなのであろうが、いずれにしても様々な事由で4年前と同様に今回の世論調査にも誤差では済まされない問題が内在しており、「隠れトランプ」支持票が接戦州の勝敗を決するであろうとのことである。
しかも10月23日の大統領テレビ討論会に思わぬ問題が表出した感がある。テレビ討論会で新型コロナウイルスへの対応、バイデン親子の汚職疑惑を始めとする様々な議題が取り上げられたが、11月3日の投票に直接影響しうる議題は意外なことに気候変動問題でないであろうか。温室効果ガス排出規制の熱心な支持者であるバイデンは再生可能エネルギーへの転換を事あるたびに訴えてきた。ところが、これは「両刃の剣」となりかねないことをバイデンは自覚しているとは思われない。バイデンとしては自分の売りであるつもりが、思わぬ弱点になりかねない。大統領討論会で「私はこの問題に雇用を創出しながら対応する。例えば、5万ヵ所の充電ステーションを設置し、アメリカに電気自動車の市場を作るため投資していく」とバイデンは力説した。要するに、気候変動対策を売り物とするバイデンは再生可能エネルギーへの転換を通じ気候変動対策と雇用の創出を両立させると自慢げに述べた。いかなる国にとっても同対策は取り組まなければならない課題であるとは言え、2020年現在の米国の基幹エネルギー産業は依然として石油、天然ガス、石炭産業であり、エネルギー政策上の移行には今後も真剣な検討が必要である。しかもテレビ討論会を視聴しているこれらの産業に従事している多数の人たちがどのような面持ちでバイデンの発言を聞いたかについてバイデンは無神経かつ無配慮であったのでなかろうか。
接戦州の多くはテキサス、ペンシルベニア、ウィスコンシンなどこれらの産業従事者を多数抱えた州である。機を見るに敏なトランプはすぐさま、「もしあなたが経済を破壊したいならば、石油産業をなくせばいい」と噛みついたのはこうした文脈からである。劣勢に立たされるトランプはなりふり構わずこの点につけ込んだのは当然であった。テレビ討論会前から、トランプはツイッターで幾度となくバイデンはこれらの州の仕事を奪おうとしていると呼び掛けてきた。これらの産業に従事している人たちにとって、バイデンは何を言っているのかとなろう。今当面している課題は今後、再生可能エネルギーへの転換によりどのように雇用を生むかでなく、今ある雇用がどう維持されるかであろう。これはテレビ討論会の一テーマに過ぎなかったが、接戦州の趨勢を決めかねない極めて重要なテーマになりかねない感がある。
10月27日にトランプはツイッターに次のように書き込んだ。「先週、ジョー・バイデンはおそらく大統領討論会の歴史で最も衝撃的な承認を行った。テレビの生中継で、ジョー・バイデンは全米の石油産業を廃止することを確認した。これはペンシルベニア州民から水圧破砕法(fracking)(シェールガス採掘)、雇用、燃料を奪い取ることだ。」11月3日の投票日を直前にして有権者の9割は投票先を決めておりバイデン親子の汚職疑惑のサプライズやテレビ討論会の影響はさほどないとみる見方や、数千万人がすでに期日前投票を済ませたり郵便投票を行ったりしていることから、選挙結果にそれほど影響がないとの見立てもあるが、必ずしもそうでない気がする。もし接戦州で約一割の有権者が投票先を決めていないとすれば、そうした有権者はこの先の状況を見て投票行動を決めることになろう。それが現在、実際には1ポイント程度で争っているとみられるペンシルベニア、ウィスコンシン、ミシガン、ミネソタなど決定的重要な州の趨勢を決めることになろう。そうした状況の下で、勝利を手にするのは最後まで気を抜くことなく走り切った候補者であろう。もしテレビ討論会でこれといった墓穴を掘らなかったとバイデンが考え、ついに勝逃げできたと思えば、全く逆の結果が待っているとも限らない。(おわり)
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