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2020-10-08 00:00
(連載1)コロナ禍に対する習近平の言い分
斎藤 直樹
山梨県立大学名誉教授
本稿は、習近平共産党総書記が行ったWHO年次総会と国連総会一般討論演説での演説を概説すると共に、これらの演説がいかに責任逃れに終始しかつ実際に生起した事実と相反するものであるかを明らかにしたいと考える。2019年12月頃、中国の湖北省武漢市で新型コロナウイルスの感染が拡大し始めて以降、習近平自身から中国の基本的立場がなかなか表明されなかった。習近平が立場を表明したのは5月18日に開幕した第73回WHO年次総会であった。習近平は「私は失われたすべての命を悼み、遺族に哀悼の意を表する」と切り出した。続いて、「このウイルスは国境を問わない。・・人種や国籍と無関係である」と語った。新型コロナウイルスに国境、人種、国籍は関係ないと強調することにより、ウイルスの発生源の問題から目を反らす一方、ウイルスが世界各地に拡散したのはやむを得なかったと言わんとした印象を与えた。「中国は懸命な努力と多大な犠牲を払い、ウイルスの拡大を阻止し中国国民の生命と健康を守った」と述べ、中国は同ウイルスの被害国であると各国に理解を求め、ウイルスの感染拡大の阻止に多大な貢献を行ったと習近平は自賛した。さらに「われわれは公開性、透明性、責任感に基づき行動した一方、WHOと関係国に最も適宜に情報を提供した」と習近平は力説した。このことはウイルスの発生初期における初動対応の遅れ、その後に感染が爆発的に拡大する下で中国当局者達が国家ぐるみで行った情報統制、情報操作、はたまた隠蔽工作に向けられた厳しい批判に対し習近平が行った反論である。中国は「公開性、透明性、責任感」に基づき行動したと習近平は反論したが、果たしてそうであろうか。ウイルスの発生初期から感染拡大に至る時系列な大まかな進捗から浮かび上がるのは、「公開性、透明性、責任感」こそが習近平指導部に欠如していたのではないかと疑いたくなる。
テドロスWHO事務局長が1月28日の習近平との北京での会談後、「ウイルスのデータおよび遺伝子配列の共有を含め、指導部が示した透明性を我々は感謝する」と習近平を称えたとおり、習近平指導部がWHOの求めに応じ最小限の情報の開示を行ったことは事実であろう。他方、2019年12月30日にウイルス感染拡大のリスクをSNSで周知させようとした武漢市中心医院の李文亮(リー・ウェンリャン)医師を武漢市公安局が摘発したのも事実である。2020年1月14日に馬暁偉(マ・シャオウェイ)中国国家衛生健康委員会主任がウイルスの感染拡大が深刻な脅威をもたらすと認識したにもかかわらず、中国保健当局が公式に発表したのは1月20日であった。この結果、ウイルスへの対応を6日間も放置してしまった。この間、武漢市で3000人以上に上る感染者が出ただけでなく、多数の人が武漢市を脱出し他の地域だけでなく外国へ向かった。この決定的とされる6日間も感染の発表を行うことなく感染拡大を隠蔽したのも事実である。
事態が切迫したと認識した習近平が1月21日にテドロスに電話を直接入れ、「ウイルスが人から人へ感染することの情報を差し控え、パンデミックの警告を延期するよう求めた」とするドイツ連邦情報局の情報が『シュピーゲル紙』によって後日、報道された。他方、「WHOが新型コロナウイルスに関する緊急事態を宣言すれば、中国はWHOのコロナウイルス調査への協力をやめると脅した」と、中国当局がWHOに圧力をかけたとみるCIA報告を伝えた『ニューズウィーク紙』報道もある。これらの報道の真偽は未だに不明であるが、1月23日に習近平指導部が武漢市を封鎖した一方、1月24日から始まる「春節」時に膨大な数の中国人旅行者の海外渡航にこれといった制限を課さなかったのは事実であり、これが世界各地へ感染をまき散らす決定的な原因となったことは疑問の余地はない。これでも習近平指導部は「公開性、透明性、責任感」に基づき行動したと言えるであろうか。さらに4月中旬に「中国科学院武漢ウイルス研究所」から武漢市の人口密集地にウイルスが流出した可能性があるとする『ワシントン・ポスト紙』の報道を受け、トランプ大統領が米情報機関に調査を指示すると、これを裏付ける決定的な証拠が米情報機関から提示されていないものの、ウイルスが同研究所から流出した可能性が高いとみられている。衛生管理や安全対策が極めてずさんであると以前から指摘されていた実験室を備えた「中国科学院武漢ウイルス研究所」が武漢市に所在すること自体、同研究所がウイルスの流出源でないかと疑惑視されるのは極めて自然なことであろう。
こうした疑惑を払拭したいと習近平が真摯に考えるのであれば、外部機関による現地調査を行うことを認めるしか方策はないであろう。実際にWHO年次総会において現地調査の実施が決議され、7月中旬にWHOチームが派遣された。しかし武漢市から遠く離れた北京市で二人のWHOチームが名ばかりの現地調査しか許可されなかった。ウイルスの流出源ではないかと疑われる「中国科学院武漢ウイルス研究所」への調査を習近平が断固認めないことも事実である。これでは今もウイルス感染による甚大な災害に苛まれている各国の指導者や国民の多くを納得させることは到底できないであろう。この間、情報統制、情報操作、隠蔽工作など、ありとあらゆる画策を中国当局者達が行ってきたと疑われても仕方がない。しかも外部世界が知りえるのは中国がこれまで国家ぐるみで行ってきた画策の一部であり、新型コロナウイルスを巡る全容からすれば「氷山の一角」にすぎないであろう。(つづく)
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