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2020-09-29 00:00
(連載1)コロナ禍での習近平指導部の隠蔽工作とはなにか
斎藤 直樹
山梨県立大学名誉教授
新型コロナウイルスの感染が確認された初期から今日まで、武漢市の地方当局から中央の習近平最高指導部を含めた中国共産党全体が同ウイルスの感染拡大の事実を隠蔽する工作に深く関与してきたと考えられる。本稿はそうした隠蔽工作の重要と思われる事例に焦点を当てる。2019年12月30日に武漢中央病院の眼科医の李文亮(リー・ウェンリャン)という医師がSNSを通じ医師仲間達に発信した。李文亮は「華南水産卸売市場の7人がSARS(重症急性呼吸器症候群)と確認された」と伝え、感染を防ぐために防護服を着用するよう助言した。助言はあくまで患者の治療に際し注意を喚起したものであった。ところが、数日後、李文亮は武漢市公安局に呼び出され、激しく叱責された。公安当局は李文亮に「我々はあなたに厳粛に警告する。頑なに無礼な振舞いを続けたり、こうした違法行為を続けるのであれば、あなたは裁かれることになるだろう。わかったか」と、恫喝された。李文亮は「社会秩序を著しく乱した」と書かれた「訓戒書」に署名するよう指示され、李文亮は仕方なく従ったとされる。しかしその後、医療現場に復帰した李文亮は緑内障の患者を診察した際、新型コロナウイルスに感染していた患者から感染したとされる。その後、2020年2月7日に李文亮は同ウイルスに起因する肺炎で死亡した。この事例は武漢市公安局による隠蔽工作であるが、ウイルスの感染拡大が広く周知されることを恐れた習近平指導部が隠蔽工作を企てていたことを物語る。
2020年1月14日に中国国家衛生健康委員会で馬暁偉(マ・シャオウェイ)主任はSARSの流行以来の「最も深刻な危機」であると発言したが、同発言は新型コロナウイルスの脅威を真剣に認識していたことを物語る。しかし中国当局が発表したのは6日後の1月20日であった。同日、中国保健当局は武漢市で198件の同ウイルスによる肺炎が確認されたと公表した。しかしAP通信によると、この6日間に感染者数は3000人以上に上ったと推定される。(“China didn’t warn public of likely pandemic for 6 key days,”
AP
, (April 15, 2020.))6日間の公表の遅れはその後、同ウイルスに対処する上で数週間から数ヵ月もの遅れをもたらしたとされる。まもなく新型コロナウイルスの爆発的感染拡大を引き起こす決定的分岐点が訪れる。1月24日に始まる中国の「春節」を目前にして習近平指導部が23日に感染拡大が続いていた武漢市を封鎖すると共に、中国内の他の都市への移動を制限する決定を行った。ところが、同指導部は「春節」での中国人旅行者の海外渡航にこれといった制限を加えなかった。このことが世界中にウイルスをまき散らす決定的な事由となった。もし習近平指導部が「春節」での海外渡航を厳しく制限することがあれば、状況は大きく変わっていた可能性がある。しかし中国国民の多くが待ち望んでいた海外渡航を制限するという選択肢は実際には習近平共産党総書記になかったかもしれない。もしもそうしたならば、中国国民の不満は巨大な怒りとなり習近平に跳ね返っていたであろう。その結果、習近平の権力基盤さえ根底から揺らぎかねなかった。そうした中で、武漢市の封鎖で十分であるとの決断に習近平は至ったのであろう。この結果、膨大な数に及ぶ中国人旅行者が世界各地に旅立った。わが国にも90万以上の旅行者が訪れることになったが、これがわが国での新型コロナウイルスの感染拡大につながったのは記憶に新しい。
2020年5月8日に『シュピーゲル紙(Der Spiegel)』はドイツ連邦情報局(BND)から入手したとされる衝撃的な記事を掲載した。(“Bundesregierung zweifelt an US-These zur Entstehung des Coronavirus,”
Der Spiegel
, (8. Mai 2020))同報道によると、「春節」を直前に控えた1月21日に習近平がテドロスWHO事務局長に電話をかけ、「ウイルスが人から人への感染に関する情報を差し控え、パンデミックの警告を延期するよう求めた」とされる。ドイツ連邦情報局の分析によると、この情報統制の結果、ウイルス感染拡大への対処は4から6週間も遅れることになった。事の真偽は不明であるものの、テドロスが世界に向けて「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(Public Health Emergency of International Concern)」宣言を行うのは9日後の1月30日であり、「パンデミックとみなせる」と宣言するのは49日後の3月11日である。もしも習近平がテドロスに圧力をかけたことが事実であるとすれば、世界各地でまもなく猛威を振るうことになる新型コロナウイルスを感染拡大させた隠蔽責任は少なからず習近平にあり、これに加担したと疑われるテドロスにも責任の一端はあると言えよう。
これに対し、WHOは5月9日に事実無根と猛反駁した。同日のWHOの声明によると、「テドロス事務局長と習近平中国国家主席の1月21日の電話会談に関する『シュピーゲル紙』の報道には根拠がなく真実ではない。テドロス博士と習主席は1月21日に話をしていないし、電話会談を行ったことはない。そうした不正確な報告はWHOと新型コロナウイルスのパンデミックを収束させる世界の努力を混乱させるものである。」とは言え、疑惑は払拭されていない。中国当局がWHOに何らかの圧力をかけたのではないかとする報道が『ニューズウィーク紙』によって行われた。5月12日の記事(“Exclusive: As China Hoarded Medical Supplies, the CIA Believes It Tried to Stop the WHO from Sounding the Alarm on the Pandemic.”)は、中国当局がWHOに「緊急事態」宣言を遅らせるべく働きかけたとするCIA(米中央情報局)報告を報じた。“U.N.-China: WHO Mindful But Not Beholden to China”と銘を打ったCIA報告によると、「WHOが新型コロナウイルスに関する緊急事態を宣言すれば、中国はWHOのコロナウイルス調査への協力をやめると脅した」とある。実際に翌日の1月22日にテドロスはWHOの緊急委員会を招集したものの、緊急委員会は紛糾し、そのため「緊急事態」に該当することに合意をみなかった。この22日の時点でWHOは世界に向けて「緊急事態」を宣言する重大な機会を逸したことになる。(つづく)
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