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2020-09-24 00:00
(連載2)新型コロナウイルスの発生源はどこなのか
斎藤 直樹
山梨県立大学名誉教授
2018年1月以降、数回に及び在中国米大使館の専門家達が同研究所を視察した経緯がある。その際、専門家達はコウモリに由来するコロナウイルスに関する研究を行っていた実験室での衛生管理や安全対策が極めてずさんであるとする二通の公電を2018年1月に国務省に通知していた。「同研究所の科学者達との対話を通じ、高度安全実験室を安全に管理する上で必要とされる適切な訓練を受けた技術者や調査官が極度に不足していることに気づかされた」と、2018年1月19日に二人の米専門家達が記していた。しかも第一の公電は特筆すべき内容であった。それによると、コウモリに由来するコロナウイルスがどのように人に感染するかに関する研究が行われているが、そうした研究は新型のSARSのようなパンデミックを引き起こしかねないリスクがあると警告する内容であった。これこそ新型コロナウイルスのことを意味するのではないかという推論を導くことになった。しかも米国内での爆発的な感染拡大が続く中で、『ワシントン・ポスト紙』報道を契機として、この可能性が急速に注目を集めだした。また4月15日に『フォックス・ニュース』は新型コロナウイルスの最初の感染は「中国科学院武漢ウイルス研究所」内で研究対象のコウモリに由来するウイルス株から何らかの事由で人間への感染が起こり、感染した人間が「0号患者」となり、同患者が武漢市の人口密集地に入り、そこでウイルスを拡散させたのではないかと推察されるとする報道を伝えた。(“Sources believe coronavirus outbreak originated in Wuhan lab as part of China's efforts to compete with US,”
Fox News
, (April 15, 2020.))
これに飛びついたのがトランプ大統領であった。4月17日の記者会見の席上、トランプは「中国科学院武漢ウイルス研究所」から流出した可能性を重視し、徹底的な調査を行っていると言明した。トランプ曰く、「ますますこの話を聞くようになった。・・我々は生起したこの恐ろしい状況を徹底的に調査している」と述べた。調査はトランプにまもなく提出され、それに基づき中国に対する対応をトランプは判断するとした。これを契機として新型コロナウイルスの発生源を巡る問題は米中関係だけでなく世界を揺さぶる大問題に発展する可能性が出てきた。トランプの記者会見に続き、ポンペオ国務長官は「このウイルスが中国の武漢市で発生したことは我々が知るところであり、人々が最初にこの疾病に感染した華南水産卸売市場からほんの数マイルしか武漢ウイルス研究所は離れていない。中国政府はこのウイルスがどのように正確に拡散したか公表し説明する必要がある。中国政府は正直にならなければならない」と断言したのである。
これに対し中国当局は直ちに猛反駁に転じた。4月17日に趙立堅(ジャオ・リジャン)中国外務省報道官は事実無根として猛然と反発した。趙立堅曰く、「ウイルスが実験室で生成されたことを示す証拠はないとWHOが繰り返し述べていることを想起していただきたい。」また「中国科学院武漢ウイルス研究所」のコロナウイルス研究プロジェクト・リーダーである石正麗(シー・ジェンリー)は「新型コロナウイルスが実験室と何の関係もないことを私は命を懸けて約束する」とウイルスとの関連を断固否定した。その後、4月30日に米国家情報長官室(ODNI)はそれまでの調査結果を公表した。それによると、「・・新型コロナウイルスは人工的なものでも遺伝子操作されたものでもないとする、広範にわたる科学的コンセンサスと一致する見解を情報機関は持つ。・・情報機関は感染した動物との接触により感染が始まったか、あるいは武漢市の実験室での事故の結果によるものであったかどうかについて判断するためウイルスの発生に関する情報を引き続き厳格な精査を続ける」と結論づけた。(“ Intelligence Community Statement on Origins of COVID-19,” ODNI News Release No. 11-20 (April 30, 2020.))米国家情報長官室の結論は断定的ではなく焦点をぼかしたものであった。この結論は同研究所をウイルスの発生源と睨んでいたトランプにとってみれば、満足には程遠かった。
その数時間後、声明を受ける形でトランプの記者会見がホワイトハウスで行われた。「中国科学院武漢ウイルス研究所」にまつわる疑惑を裏付ける結論が米国家情報長官室から提示されると期待したトランプは、そうした結論に至らなかったことに多少ならずとも落胆と失望感を隠せなかった。それでも「中国科学院武漢ウイルス研究所」について何らかの証拠を見たのかという記者の質問に対し、「そうだ、見た」と発言した。続いてその理由を聞かれると、トランプは「話すことはできない。話すことは許されていない」とお茶を濁した。続いて、中国に対する損害賠償について、トランプは米国が中国への債務返済を中止という方法はとらないとし、「関税を課すだけで、より多くの資金を得ることができる」と言及し、中国に対する莫大な額の関税を科す可能性を示唆した。米情報機関による調査で発生源を特定できないことを踏まえると、外部機関による現地調査が不可欠となろう。外部機関による調査の必要性を4月23日にモリソン・オーストラリア首相に指摘されると、習近平指導部は案の定、猛反駁した。とは言え、5月18日、19日に開催されたWHO年次総会で60ヵ国以上が現地調査を要求する決議文が採択され、中国での調査の実施が確実となった。これに応じ、7月中旬に2名のWHOチームが中国を訪問したが、北京に留まっただけで問題の市場や二つの研究所に立ち入ることができなかった。今後も調査をWHOが継続するとしているものの、日程は未定のままである。習近平中国共産党総書記とテドロスWHO事務局長の誠に不透明かつ不自然な関係に照らすと、現地調査という名の下で体裁を繕っているとしか思えてならない。これでは今後も、発生源を巡る真相はうやむやになるのではないかと推察せざるをえない。(おわり)
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