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2020-09-18 00:00
葬儀と外交
中山 太郎
非営利団体非常勤職員
報道で米は、李台湾元総統のお悔やみに、クラッチ国務次官を送ったと述べている。これは、台湾より中国あてのメッセージでもある。元大統領や閣僚級ではありませんということだ。外交で葬儀への参加は非常に大事だ。葬儀は、突然発生するので、関係者はスケジュールを調整したり苦労させられる。大人の国は皆何とかこなしているのだ。ユーゴスラビアのチトー大統領がなくなったとき、大平総理は米にいたが急遽葬儀に向かった。その頃、中国は毛沢東の文革の嵐が静まりつつあり、彼を引き継いだ華国鋒がトップだった。しかし、中国特有の権力闘争は激しかった。華国鋒の最大のライバルは、文革中走資派として叩かれ、ご自分のみならず、家族も迫害を受けた鄧小平一派だった。海千山千の鄧小平には、華国鋒はとても太刀打ちできない状態だった。彼としては、日本の支援が必須だった。急きょ、葬儀の場面での首脳会議を要請してきた。
中国は、文革中は国をまったく閉ざしていたので、外交のスタッフは育っていなかった。会議のお膳立ても日本頼みだった。通訳が中国側は手配できないということで、ヨーロッパにたまたま駐在していたキャリアのチャイナサービスの若手を呼び寄せた。外交慣れしていない華国鋒は、自分の湖南なまりは、ひどく普通の中国語学習者にはとてもじゃないが聞き取りが難しいなどと言うことは考えなかった。中国人でさえ聞き取りが難しい話を、いくら優等生の外交官でも対応は無理だった。しかし、戦前の漢文教育を受けた大平総理は、書かれた中国語はほとんど理解できた。それで急きょ首脳同士の書きながら会話する、勿論所々は日本のキャリア外交官が助けるという方式での会談が行われたのだった。言葉のなまりの問題は、江沢民時代の国家副主席の栄毅人も強かったが、その頃は中国側も慣れてきていて、自分たちで通訳を用意するとか相手も通訳を使う際は、標準の中国語に訛りをただす通訳も付けたりした。
日本語・中国語の達人のある米学者の話であるが、国共内戦のころ、米のジャーナリストが毛沢東にインタビューをした。中国側は米国に長くいた華僑などを通訳に使った。欧米人は中国文化への理解に乏しいが特に、日中の人々は、ユーモアーを解さない人たちだとの思い込みが激しい。あるとき毛沢東は「坊さんが傘をさす」と言う表現をした。これは洒落言葉で、髪の毛のないお坊さんが傘をさしていれば、空(天)もないし、頭も坊主だ、すなわち、髪の毛なし(中国語の無法と発音が同じ)、空も見えない、天なし(無天)、すなわち「俺は無茶苦茶を今やっているのだ」と述べたのを、米育ちの通訳は「雨の日に一人の僧が傘を差しとぼとぼと歩いてゆく」と訳し、米側の記録でそうなってしまったそうだ。その意味で、今や世界中の嫌われ者になりつつある中国の習近平だが、新中国初めての外国人にもわかりやすい標準中国語を話すということは、もっと特筆されてもよいだろう。
小泉さんは、外交を喧嘩の道具にして人々の人気を得たが、外務大臣は初代の田中真紀子氏が、外務省内の課長レベルと大喧嘩したりした。2代目は通産省出身の女性で、小泉チルドレンの一人の杉村太蔵氏は、「あの人は英語がペラペラだし、きれいだ。大好き!」と述べていたが、日本外交は世界に敵を作らないように細かく見配りをしているが、中近東は日本の生命線である石油の大事な元締めで大事にしている。その意味で、パレスナとの関係はアラブ諸国の隠れた支持を得る上でこの上なく大切だ。中国に劣らず権謀術策渦巻くアラブ諸国内のやり取りで、晩年のアラファトは、同じ過激派内でも周囲に敵を持っていた。そして、何かの時に頼りにしたのが日本だった。欧米、ロシア、中国などと違い法を超えた手段をとれないまでも、可能な限りの支援をしてもいた。彼がなくなったとき、あれだけ文句をつけてもいた欧米諸国も、王族や大統領クラスを弔問の特使にした。日本は、この杉村太蔵氏ごひいきの大臣が特使に任命された。驚くことに、彼女はスケジュールがあわない。適当なフライトが見つからないと行かなかったのだ。同じ条件の韓国の特使はフライトを乗り継ぎ、カイロまで飛んだのにだ。今や大人になった杉村太蔵氏のコメントを是非拝聴したい。ちなみに、国共内戦の当事者たちの内、中国の毛沢東の逝去の際は外国からの賓客はナシで、代わりに北京駐在の外交官たちに、毛の遺体との対面をさせた。台湾の蒋介石逝去の際は、日本からは佐藤栄作元総理が鹿児島出身の山中貞則議員と弔問した。調べると山中議員は、台湾の日本時代の軍人や軍属への支援に尽力しておられる。流石、「人事の佐藤」と言われるだけあり、人をよく見ておられたのだ。
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