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2020-09-18 00:00
(連載2)李登輝先生の思い出
長島 昭久
衆議院議員
「大事を成すに、直進は迂回に如かず」(大きな目標を立てた時、私は真っすぐそこに進むことはありません。必ず遠回りをすることにしています)。これは、政治家・李登輝のリアリズムを如実に表した至言であると、今も胸に刻んでいます。たしかに、先生は、1971年に突然蒋経国総統から副総統に抜擢されて以来、外省人が仕切っていた国民党中枢にあって、圧倒的なマイノリティである本省人として激烈な権力闘争をくぐり抜け、忍耐強く四半世紀の時を費やし96年の総統選を勝ち抜くことにより、「台湾人の台湾人による台湾人のための台湾」をついに実現したのです。過去40年間立法院を牛耳ってきた万年議員を大量引退に追い込んだ手法については、先生の名著『最高指導者の条件』に詳しいですが、党、政府、軍の中枢を粘り強く掌握しつつ、外省人パワーを一つ一つ骨抜きにして、96年の民選総統選の実施にまで漕ぎつけた緻密な知略と周到な政略には、驚嘆を禁じえません。まさしく、「大事を成すに迂回を厭わぬ」李登輝先生の面目躍如たるものがあります。
さて、遺された私たちの双肩には、100年に一度といわれる世界史的な課題が圧し掛かっています。一つは、新型コロナ・パンデミック。今一つは、自由で開かれた戦後の国際秩序を脅かす中国の挑戦です。幸い、前者については、台湾が素晴らしいお手本を示してくれましたし、我が国を含むアジア諸国では概ね爆発的な感染拡大や医療崩壊を防ぐことができています。より深刻なのは、中国の対外強硬路線です。南シナ海ではすでに広大な人工島が築かれ着々と軍事要塞化が進められています。東シナ海の尖閣諸島周辺では連日中国の準軍事組織「海警」の船舶が我が国の実効支配にチャレンジしています。すべては、台湾併呑への布石と見られています。南シナ海の島々に中国軍の軍用機や軍艦が配備され、尖閣が中国のコントロール下に陥れば、台湾も沖縄を含む南西諸島も風前の灯火となるでしょう。
すなわち、李登輝先生が繰り返し仰っておられたように、日本と台湾は紛れもなく「運命共同体」なのです。力によって一方的な現状変更を試みる中国の圧力を撥ね返すには、李登輝先生が示された不屈の精神と綿密周到な有志国の連携が必要です。そして、何よりも、日本と台湾との間に「正式な国交未満」のあらゆる関係―FTAからインテリジェンス・シェアリング、さらには先端技術の共同研究開発など―を深化、拡大させていくことが、両国の安全保障にとり最も重要であると考えます。7年前、ご自宅で李登輝先生から託されたこと、それは、日本にも(1979年の米華断交の際に)米国議会が制定したような「日本版・台湾関係法」を制定することに他なりません。李登輝先生ご逝去にあたり、私は、正式な国交回復に代わる実質的な日台関係の深化を急がねばならないと、誓いを新たにいたしました。
李登輝先生、東アジアの平和と安定と繁栄のため、先生が示された不屈の精神を引き継いで困難に立ち向かう私たちを、どうぞ天国から見守ってください。合掌(おわり)
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