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2007-06-28 00:00
注目すべき「落伍国家」の変容エネルギー
大江志伸
読売新聞論説委員
「落伍すれば侵略される」。19世紀以降の悲惨な歴史を教訓に、中国人がよく口にする警句である。通貨危機から間もないアジア各国を回った友人のH氏は、この警句をもじって、「グローバル経済のもと、落伍国家はずっと落伍したままだ。侵略の対象にさえならない」との“総括リポート”を送ってきたことがある。「落伍国家」の筆頭にあがっていたのがカンボジアであった。
あのアジア通貨危機から10年――。かつての「落伍国家」カンボジアが元気だ。カンボジアが念願の世界貿易機関(WTO)加盟を果たしたのが2004年、以来、国内総生産(GDP)は毎年10%前後の高い伸びを示している。成長の原動力はやはり外資だ。カンボジア政府は2005年末から経済特別区の本格導入に取り組み始めた。進出企業は法人税や関税の免除に加え、投資収益や給与の国外送金も可能など、様々な優遇措置を受けることができる。特別区造成はこれからが本番だが、外国企業の反応は良い。国際的な競争力を持つ縫製業を中心に、海外からの直接投資は増加基調に乗った。2005年を例にとれば、投資額が多いのは中国、タイ、韓国、マレーシアの順だった。
ところが、最大の援助国である日本の影は薄い。投資額は全体の1%、貿易額は2%止まりと、「想定外」の低水準にある。東南アジア諸国きっての知日派として知られるカンボジアのフン・セン首相が6月中旬、来日した。実に15回目、公賓としては初となった来日の目的は「日本企業の誘致」だった。フン・セン首相は、安倍首相との会談では、「新たなパートナーシップに関する共同声明」に署名し、具体策となる投資協定を結んだ。日本記者クラブでの記者会見では、「カンボジアは日本からの投資、観光に期待をかけている」「2012年をめどに地雷ゼロ運動を推進している。危険な国ではない。是非安心して投資を」と、自信に満ちた口調でトップセールスに努めた。
有力な投資先であるタイとベトナムに挟まれ、人口も少ない、というのが日本企業のカンボジア認識だろう。筆者もバンコク駐在中、カンボジアを訪れるたび、「落伍ぶり」だけが目についた。だが、ひとたび「成功国家」へのチャンスをつかんだ「落伍国家」は、底知れぬエネルギーを放出することも、中国駐在を通じて目の当たりにした。中国を熱源とするアジアの変容エネルギーは、カンボジア、ラオス、ミャンマーといった後発開発途上国にも確実に浸透しはじめている。日本は過去の実績に安住するあまり、転換点を見過ごすようなことがあってはならない。
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