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2020-08-10 00:00
(連載1)中国による尖閣の実効支配を許してはならない
斎藤 直樹
山梨県立大学名誉教授
2020年冬に中国の湖北省の武漢市を発生源とする新型コロナウイルスの感染が中国だけでなくわが国においても急増し出した。こうした中で、2020年3月に習近平国家主席の国賓としての訪日が延期されることが決まった。これに合わせたかのように、4月14日以降、わが国の固有の領土である尖閣諸島領海の外側の接続水域に中国海警局公船が連日、侵入し出した。こうした中で、5月8日に尖閣諸島の領海内で極めて遺憾な事件が発生した。同日、尖閣諸島の領海内で操業していた「瑞宝丸」という漁船が四隻の中国公船に追い回わされるという事件が起きた。これに対し海上保安庁の巡視船が漁船を警備する事態に及んだ。5月11日に「日本の漁船が中国の領海で違法操業した。海保が違法な妨害をした」と、趙立堅・中国外務省報道官は声を荒げた。こうした発言は尖閣諸島が中国の領土であるとの前提で論じているところに問題がある。こうした状況を放置すれば、遠からず次の段階の行動に中国が乗り出すことを想定する必要が出てきた。
同事件に対する日本政府の対応は誠に鈍かった。5月8日に起きた尖閣諸島領海での日本漁船への中国公船による追跡事件から一ヵ月以上経った6月12日に、茂木外相は同侵入問題にようやく触れた。茂木によれば、「中国は一つずつステップを踏んで現状を変更し、新たな(既成)事実を作っている段階にある。」中国は「『サラミ戦略』を取っている」とし、「しっかり対応することが必要だ。」しかもその後も、尖閣諸島周辺海域への中国公船の侵入は続いたが、政府はこれといった対応を講じなかった。もしこうした状況を放置していたならば、遠からず尖閣諸島を力ずくで実効支配しようと習近平指導部は乗り出すことが考えられないわけではない。こうした状況の下で、島嶼防衛が喫緊の課題として浮上した。結局、中国公船による尖閣諸島周辺海域への侵入は8月2日までに実に111日間、続いた。台風の影響で連続侵入は途切れたが、今後懸念されるのはこれまで以上に深刻な事態である。こうした中で、『産経新聞』は8月2日に「中国、漁船群の尖閣領海侵入を予告『日本に止める資格ない』」という見出しで、8月16日以降、大量の中国漁船が尖閣諸島周辺海域に侵入する可能性があると伝えた。同報道によれば、8月16日の中国の休魚期間が終わり次第、中国漁船が尖閣諸島周辺海域での漁業を開始することを通告してきたとされる。中国漁船の中には漁業従事者を装った海上民兵がいれば、漁船の背後に中国海警局公船が控えていることが想定される。
これまでも尖閣諸島領海には2016年の休漁期間の終了後、4日間で72隻の中国漁船、28隻の中国公船が侵入した経緯がある。コロナ禍の間隙を突く形で習近平指導部が強引かつ露骨な海洋活動を繰り広げてきた中で、以前に増して多数の漁船や公船が一挙に侵入することが懸念される。この結果、尖閣諸島周辺海域は一気に緊張局面に転じかねないことが予想される。これに対し、日本国民の多くにとって尖閣諸島は遠い離島のことにしか映らないかもしれない。日本国民が尖閣諸島の防衛に対し危機感を持っているとは言い難い。しかもコロナ禍への対応でわが国は四苦八苦しているのが実情である。コロナ禍で沖縄県での感染者が急増しており、医療態勢がひっ迫している状況にあり、メディアの報道もコロナ禍への対応に終始している感がある。まさに習近平指導部にとってみれば、今こそ尖閣諸島の実効支配に向けた狙い目であるということであろう。こうした状況こそ、習近平指導部に付け込む隙を与えるのである。
このように考えると、4月上旬から続いてきた中国公船による尖閣諸島周辺海域への侵入はこれから起こることの布石でなかったのか。6月12日に遅ればせながら、茂木外相が中国公船による連日の侵入を「サラミ戦術」と表現し、中国側が既成事実を作り上げようとしていると述べたが、次に起きるのはそうした既成事実に続く中国側の行動である。すなわち、「サラミ戦術」が終わったとして尖閣諸島領海を膨大な数による中国漁船や中国公船が囲い込み、海上保安庁の巡視艇による監視の目を潜り抜け、尖閣諸島に上陸し国旗を掲揚するという事態が想定されないわけではない。これにより尖閣諸島の実効支配を中国側が一気に目論む可能性がある。そうした可能性を日本側は想定し防衛態勢を構築しているであろうか。8月5日に、衛藤征士郎元防衛庁長官は危機感を表明した。衛藤は「中国高官はなんと、中国として尖閣列島の実効支配に向けて具体的な行動を取ると。日本国政府として明確な実効支配に向けての動きをせねばならん」と声を上げたのである。衛藤の発言は明らかに習近平指導部が尖閣諸島の実効支配に打って出る可能性があることを示唆したものである。(つづく)
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