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2020-08-08 00:00
外交音痴の日本のとるべき道
中山 太郎
非営利団体非常勤職員
『文芸春秋』9月号に作家阿川弘之の後を継いで巻頭の随筆を書いている藤原正彦(数学者)の文章内容は考えさせられる。1919年のパリ講和会議で、ウイルソン米大統領の提案で国際連盟が発足することとなった。戦勝国としてこの会議に出席した日本は、珍しくアリの視点からの目の前の話だけでなく、鷹の大所高所からの提案を出した。連盟規約に人種差別撤廃を入れるよう提案した。日本代表は西園寺公望、その秘書官として後に首相となる近衛文麿、次席に日本外交界のドン牧野伸顕、その秘書官として吉田茂が配置されるという、日本のオールスターメンバーであった。吉田の夫人は、牧野の令嬢で語学の達人で、日米が戦争に突入し、日本滞在が10年と異例の駐在期間を過ごしたグルー米大使夫妻を、車や、必要物資の手配など、陰で大いに支援した雪子夫人である。人種差別撤廃は、黒人問題を抱えている米、植民地での有色人種差別をしまくっている英の猛反対にかかわらず、採決の結果、賛成11票、反対5票で可決となった、と見られた矢先に議長のウイルソンが「重要な法案は全会一致が必要」と突然言い出し日本案を退けた。日本案はつぶされてしまった。
中国の肩を持つわけではないが、昔から英米のずるがしこい姿勢は変わっていないのだ。習近平は、白人崇拝、英米を主とした西側文明崇拝を抜け出せと言っている。しかし、反面それは、中国エリート層ではいまだ根強い英米崇拝の深層心理があるのだと、知人の中国人知識人は述べている。その知識人が言うには、彼ら英米のエリート層のほとんどが、中国についての貧しい知識しかもっていない。もし、英国で仕事や留学で滞在する場合、英語もほとんどできず、シエクスピアも聖書も読んだことがない、ただひたすら英国の金融街の話だけにしか興味がない人間がいたとしたら、彼らは馬鹿にするだろう。
しかし、ほとんどの英米人は、論語、孟子など知らないし、唐詩、杜甫、李白について読んだこともないものがほとんどだ。漢字は成人してから学ぶには難しすぎると、勉強する前からさじを投げている。中国は、西側先進国のうまいさそいに乗り、日本たたきをしまくっていたが、そしてこれは今も続いているのだが考えてみると、日本人は漢字が皆わかるし、論語孟子については部分的には我々より深い論述もある。小さな学童でさえ、唐詩を暗記するものや、三国志などの古典に通暁しているものもいる。10才の小学生と話をしたが、彼は三国志の人名に凝っていて、たちどころに20名ほどの名前を書いて見せてくれた。トランプ支持層の人間の取材に行ったことがあるが、お世辞に「中国人大好き」などと述べていた。トランプ大統領の孫娘が中国語を勉強していることが、大きくプレイアップされていたころだ。彼らは、中国の首都は、「東京」---「違う、それじゃ、香港」と述べていた。
日本人で、国際金融分野で仕事をしている知り合いは、次のように述べる。国連やほかの国際組織は、1国1票が原則である。そして、世界には途上国の方が断然多いのだ。中国がコロナ騒動を利用して、こうした途上国へ保健医療を手掛かりにいろいろ働きかけてくることは当然考えられる。日本は、今までの信頼関係をなくさないように心掛け、やはり米中の間に立ち、かなめとなる動きをすべきだし、こうした途上国からも期待されている。彼らとしては、米中どちらか一辺倒は困るのだ。日本としては、国際場裏で格好をつけることは得意ではないが、粘り強く、自由と民主主義の体制が善であることを説き、他の自由と民主主義の国々にも静かに結束を呼びかけ、世界的な健康増進のための国際協力体制づくりに邁進すべきだ。
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