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2020-08-07 00:00
あまりに残念な「安倍氏土下座像」の受け止め方
伊藤 洋
山梨大学名誉教授
「韓国・平昌の植物園が、慰安婦を象徴する少女像にひざまずいて謝罪する安倍総理大臣を模した像を設置していることについて、韓国外務省の報道官は、支持しない考えを示しました。『外国の指導者に対して国際儀礼を考慮する必要がある』と説明しています」(2020/07/28 NNN)。韓国江原道の私立植物園の園長が私費で園内に設置したという「少女とそれに向かって土下座している男の像」、少女の方の像はいまや「従軍慰安婦」問題の象徴的「記号」と化している像であり、土下座しているのは設置者本人の言でもこれを「日本国の安倍晋三首相と解釈してもらってもよい」と言っているそうだから、確信犯的行為と言わざるを得ない。実に「人間として」残念である。これに対するに、韓国政府の公式見解が上記記事である。他の外電報道と合わせるとこれは「報道官による定例記者会見」の席上で述べられたものだそうだが、一民間人の所業とはいえ、これを一応青瓦台の政府見解として遺憾の意が表明されたこととして了としたい。
対するに菅官房長官は、「『事実かどうか確認していないが、そのようなことは国際儀礼上、許されない。事実であれば、日韓関係に決定的な影響を与えることになる』と強い不快感を示した」(2020/07/28読売新聞)という。これを設置した金持ちの男に、してやったりと思わせるに十分な、冷静さと理性を欠いたもの言いであったのは実に残念である。この内閣はこんな小人をもって7年もの長きにわたって総理官邸の管理人たる官房長官を務めさせてきたと分かるからだ。さなくても日韓の間には難問が山と積り、一触即発の危機に直面している。ここ数年の日韓対立はごく一部とはいえ両国の過激な民衆レベルの煽情的運動、糅てて加えてそれに意識的・政治的に異を唱えない政府という構図が横たわっている。その結果が、こういう民間人の「金持ち」や「閑人」が、政治権力におもねるように跳ね上がった行動に出てくる。
他方、香港に関わって世界に公約した一国二制度を一方的に破棄して民主主義を無視していよいよ独裁権力を嵩に着た習近平の中国。その中国とは反対に経済的ばかりでなく政治的にも斜陽化の始まった米国。その二国の関係が「冷戦の復活」と言われる程までに一触即発の状況にまで悪化してきた。他方、まさかとは思いつつも過去3年ほど、期待をかけもした「米朝関係」はもはや元の木阿弥。トランプ政権にとっては、とりあえず北朝鮮からのミサイルが米本土に届かないレベルにある間は関心がない。加えて、憲法改正して「王権」を強化したプーチン帝王のロシアも存在が際立つ。
こう見てくると、東アジアにあって、何と言っても日本と共通の価値観をもっとも多く共有できるのは韓国であることは重要である。こういう国際環境下にあって、政治が度量を欠いているのであれば、せめて国民レベルでの善隣友好こそが頼みである。にもかかわらず、この民間人金持ちによる像の制作と展示は実に遺憾である。どこにもいる「お騒がせ人」の所業について、日本国民も韓国国民もこれを悪しき実例として肝に銘じておきたいものである。
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