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2020-08-04 00:00
(連載1)ポンペオ国務長官による米中新冷戦演説
斎藤 直樹
山梨県立大学名誉教授
ポンペオ国務長官は7月23日に「共産主義中国と自由世界の将来(“Communist China and the Free World’s Future”)」と題し、対中関与政策からの決別を宣言する演説をニクソン大統領図書館・博物館の前において行った。同演説は米中新冷戦の勃発を象徴する演説として歴史に刻まれることになるのではなかろうか。本稿はポンペオ氏の演説を解説すると共に、わが国を含め自由主義諸国が今直面している危機について論じてみたい。ポンペオは初めに中国に対し米国の指導者達が誤った考えを固持してきたと指摘した。ポンペオが言うところの誤った考えとは、米国が中国に関与を続ければ、中国もいずれ自由と民主主義を受容するであろうという仮説であり、そうした仮説を歴代の米政権がまことしやかに信じてきた。とりわけ民主党政権はそうした仮説を信じた節がある。最近ではこの考えの信奉者はオバマ政権であったと言えよう。親中派のオバマ大統領は2009年1月から2017年1月までの決定的に重大な時期の米大統領として中国共産党指導部、とりわけ習近平指導部による既存の国際秩序の現状を覆そうとする数々の行状を見逃し続け、また行状に目を背け続けた。(「米中新冷戦の起源(1)(2)」『百家争鳴』(2020年7月27、28日)参照。)
米国が関与政策を続ければ中国国内で変革が起きると期待したが、現実にはそうはならなかったと対中関与政策の功罪をポンペオは振り返った。その結果、米国の自由で開かれた社会から優れた知的財産や企業秘密が中国共産党によって盗み取られた。中国が今、IT大国として躍進した背景には米国から盗み取った知的財産や企業秘密の集積があるとポンペオは断言した。ポンペオの言葉を借りると、「中国は我々の優れた知的財産や貿易機密を盗み、全米を通じ数百万の仕事を奪った」ことになる。続いて、中国共産党体制は崩壊したマルクス・レーニン主義を未だに信奉しているとポンペオは論じた。その指導者である習近平共産党総書記は全体主義イデオロギーの信奉者であり、共産主義に基づく世界支配を企んでいると明言した。ポンペオによると、「・・中国共産党体制がマルクス・レーニン主義体制であることを知っておかなければならない。習近平共産党総書記は潰れた全体主義イデオロギーの信奉者である。習近平は中国共産主義による世界の覇権を握ろうと数十年にわたり野望を抱き続けている」。
習近平が権力を握った2012年以降、「中華民族の偉大なる復興」を掲げ2049年までの世界大国の実現に向けてがむしゃらに中国は邁進している感がある。それは自由と民主主義や人権という自由主義諸国が共有する価値観に立脚する既存の国際秩序と相いれないものである。と言うのは、「中華民族の偉大なる復興」を唱える習近平は、中国こそが世界の中心であり、周辺地域は中国の権威と覇権に平伏す存在でなければならないと、本気に考えている節があるからである。この結果、遅かれ早かれ各国は中国に隷属を強いられることになる。習近平の目論見は中華民族が世界の中心であるとする中華思想史観に基づく。習近平は現代における中華思想の体現者であろう。しかも中華思想史観が中国共産党一党独裁体制と結びつくことにより、その覇権主義的かつ権威主義的な性格はこれ以上にないほどに露骨でかつ横暴になる。現在、南シナ海、香港、台湾周辺海域や尖閣諸島周辺海域を含めた東シナ海、中印国境など多数の地域で摩擦や軋轢が起きていることこそ、このことを示しているのではなかろうか。コロナ禍は中国共産党の本性、習近平という指導者の本性をあらわにしたと言えよう。誠に皮肉なことであるが、コロナ禍がなかったならば、その露骨で横暴で傲慢で狡猾で陰湿で陰険な本性はこれほど顕著にあらわにならなかったかもしれない。その意味で、コロナ禍は隠れていた本性を一気に表出させたと言えなくもない。
習近平体制には自由と民主主義を担保する制度もなく、人権の欠片もない。中国では未だに民主主義の根幹である複数政党制に基づく普通選挙が実施されていない。そのような状況の下で、どのようにして民意が政治過程に反映されるのか。中国共産党による一党独裁体制が堅持され、その頂点にいるのは習近平である。その人物はかつての中国王朝の皇帝であるかのように振る舞い命令を下す。人民はただただそれに服従する他に選択肢がない。加えて、人民の言動は張り巡らされた監視網によって厳しく監視されている。体制を批判する者は直ちに連行され、消息をしばしば絶つ。今も昔も人民は無力である。これが中華人民共和国の現実である。その意味で、北朝鮮の金正恩体制と大同小異であるといっても過言ではないであろう。新型コロナウイルスが原因で亡くなった李文亮(リー・ウェンリャン)医師の悲劇は習近平体制が招いた悲劇である。2019年12月の終わりまでに武漢市の幾つもの病院に発熱など体調の異変で多くの患者が押しかけた。患者を診療した李文亮は12月30日にSNSを通じ医師仲間たちに、「華南水産卸売市場で7人のSARS(重症急性呼吸器症候群患者)を確認」したと伝えた。患者の治療に際し注意を喚起したものであったが、これを重大視した武漢市公安当局は「ネット上に事実でない情報を公表した」として、李文亮を摘発した。こうしたことは自由と民主主義や人権が確立された自由主義国家で起きるはずがない。どうしてこのようなことが起きるのか。その後、医療現場に復帰した李文亮は新型コロナウイルスに起因する肺炎で2020年2月7日に死亡した。(つづく)
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