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2020-07-30 00:00
米軍による南シナ海人工島爆破は合法
倉西 雅子
政治学者
7月13日、アメリカのマイク・ポンペオ国務長官は、南シナ海問題に関して中国を痛烈に批判する声明を発表しました。中国は、南シナ海一帯の自国領化を一方的に進めており、もはや見過ごすことはできない段階に達したのでしょう。同海域に中国が建設した人工島に対する米軍による爆破も取沙汰されていますが、このシナリオ、あり得るのではないかと思うのです。
南シナ海において中国が正当な法的根拠を有していないのは、2016年7月12日に常設仲裁裁判所がその判決によって明らかにしています。南シナ海の諸島は東南アジア諸国が領有権を争う係争地であるとはいえ、中国による一方的な現状の変更は、「侵略」と言っても過言ではないのです。しかも、中国は、この海域一帯を軍事基地として利用しており、SLBMを搭載した原子力潜水艦の配備も懸念されています。同地域一帯が中国の軍事基地ともなれば、地政学的な障害となってきた日本、台湾、フィリピンを迂回して中国海軍は太平洋に進出し得るのです。近年、中国が、太平洋諸島諸国に急接近しオーストラリアとの対立が激化しているのも、太平洋の海洋支配を狙ってのことなのでしょう。
さて、近代以降、常設仲裁裁判所や国際司法裁判所の設置など、国際司法制度を整えてきましたが、現行の制度には重大な欠陥があります。それは、強制的に執行することができない、という点です。国際司法裁判所の場合には、最終的に国連安保理に執行が委ねられるのですが、南シナ海問題を扱った常設仲裁裁判所に至っては、判決の強制執行に関する手続きが設けられていないために、中国は無視を決め込んでいます。今日、南シナ海問題をめぐり米中間の緊張が極限まで高まるに至ったのも、2016年における常設仲裁裁判所の判決時にあって、オバマ前大統領、並びに、国際社会が何らの制裁的な措置も採らなかったからなのでしょう。この意味において、判決後の自由主義国の融和的な対応は、今般の中国の拡張主義を誘引した‘第二のミュンヘンの融和’であったのかもしれません。それを踏まえますと、今般、アメリカが軍事力を行使し、判決の強制執行行為として南シナ海一帯から中国を追い出したとしても、それは、国際法上に根拠を有する行為と見なされると筆者は考えております。常設仲裁裁判所の判決の執行と解釈すれば、米軍が中国が建設した人工島、即ち、軍事基地を破壊したとしても、その行為の違法性が問われることはないということです。
中国は、急ピッチで空母の建造を急いでいますが、この動きは、対米開戦を意識してのことなのでしょうか。同国にあって建造中の3隻目の空母は「電磁カタパルト」が搭載されており、その最初の1隻の進水は1年以内とされており、それは両国のスケジュールに重要な意味合いを与えるでしょう。もっとも、中国が開戦の準備を以ってその回答を示したとしても、アメリカ側には軍事力行使の正当性があります。感染症、洪水など国内の災害が激甚化しつつある中国には、自制する国内向けの口実が充分にあります。いまや南シナ海からの名誉ある撤退の決断こそ、同国が‘面子’を保つ唯一の道なのではないかと思うのです。
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