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2020-07-28 00:00
(連載2)米中新冷戦の起源
斎藤 直樹
山梨県立大学名誉教授
これと並行するように、習近平指導部は海洋進出を強引かつ傲慢に推し進めた。南シナ海ほぼ全域を覆う形の「九段線」を引き、その内側に入る広大な海域に領有権を中国は以前から主張してきた。中国の主張は露骨な国連海洋法条約違反であった。これ以上看過できないとしたフィリピンが常設仲裁裁判所に提訴すると、2016年7月に同裁判所はフィリピンの訴えを認め、中国の主張に法的根拠はないとする裁定を下した。しかし仲裁裁判所の裁定は習近平にとっては紙切れ一枚に過ぎなかったようである。習近平は裁定を意に返すことは全くなかった。またオバマ政権は取り立ててフィリピンの立場を擁護する姿勢を示すことはなかった。この間、南シナ海の中央部に位置する南沙諸島の「軍事拠点化」を習近平指導部は強引かつ傲慢に進めた。同指導部は実効支配する幾つもの岩礁を埋め立て「人工島」に作り替え、軍事施設を建造し軍用機の発着を可能にすべく3000メートル級の滑走路を敷くという挙に出た。この結果、数年間で南沙諸島の幾つもの「人工島」では「軍事拠点化」が進み、その様相が一変したことが伝えられている。(「コロナ禍の間隙を突く中国の強引な海洋進出(1)(2)」『百家争鳴』(2020年6月29、30日)参照。)これに対し、オバマ政権は「航行の自由作戦」として米海軍艦艇をしばしば同海域に送り込んだものの、習近平には全く牽制にならなかった。
「核兵器のない世界」を語ったオバマは皮肉なことに中国や北朝鮮に核兵器の増大を許す絶好の機会を付与したのである。2017年1月にトランプ政権が発足したとき、目の当たりにした厳しい状況にトランプは愕然とせざるをえなかった。同政権の発足に合わせるかのように、米国本土に対する「対米核攻撃能力」の獲得を最終目標に据えた金正恩指導部は、ICBM発射実験と核実験に代表される大規模軍事挑発を繰り返すに及んだ。こうした中で、トランプ政権にとって喫緊の課題となったのは金正恩指導部による核ミサイル開発に楔を打ち込むことに加え、習近平指導部による中距離核戦力の大量配備と強引かつ傲慢な海洋進出に対し実効的な対抗策を講ずることであった。さらにプーチン指導部によるINF全廃条約違反の動きにも対処しなければならなかった。プーチン指導部が2017年以降、中距離射程のSS-C-8地上発射巡航ミサイルを展開したことが明白になると、INF全廃条約に違反するとトランプ政権が抗議したが、無視された。ここに至り、同条約の存続の是非の検討をトランプ政権は迫られた。しかも同条約の締約国でなかった中国の習近平指導部が猛然と中距離核戦力の大量配備を進めたことはトランプ政権の判断に決定的な影響を与えた。同政権が2019年2月1日に同条約からの離脱を宣言したのは周知のとおりである。
とりわけ、習近平指導部による中距離核戦力の大量配備、強引な海洋進出などの動きは現状への真っ向からの挑戦であり、これを断固封じこめるべく確固たる対抗措置を講ずる必要があるとする結論にトランプ政権は至った。トランプ政権が対中政策の要の一つとして重視したのは莫大な額に及ぶ対中貿易赤字の緩和を図ることであった。このために同政権は中国からの輸入品目に対し法外とも言える高額関税を課すという策に打って出た。この背景には、オバマ政権時代に米中貿易総額が確実に増大の一途を辿り、これと並行するように米国が抱える対中貿易赤字額が上昇を続けていたとの認識があった。ところが、高額の対中貿易関税をトランプが課すと、これに対し習近平がこれまた高額の報復関税を課したことで、米中間で関税の掛け合いとなり、激しい米中貿易摩擦問題が発生したことは周知のとおりである。こうした状況の下で、2019年12月に米中間で貿易に関する第1段階の合意が結ばれた。ところがここに直撃したのが新型コロナウイルスの感染拡大であった。2020年1月頃、中国の湖北省武漢市を発生源する同ウイルスの感染が急拡大し始めた。皮肉なことに、ウイルスの発生元である中国では同ウイルスが事実上、収束した感がある一方、米国はいかなる国よりも甚大な被害に苛まれている。7月23日現在(日本時間)、感染者数は3,970,906人を数える一方、死亡者数は143,190人に及び、さらに増加傾向にある。
百を優に超える加盟諸国のインフラ整備という名目で膨大な額の資金を貸し付けながら展開している「一帯一路」に始まり、中距離核戦力の大量配備、強引かつ傲慢な南シナ海での海洋活動、とりわけ南沙諸島の「軍事拠点化」に向けた露骨な動き、香港の自治の事実上のはく奪に続く台湾への軍事侵攻の可能性をちらつかせる軍事的圧迫、さらにはわが国の尖閣諸島周辺海域への連日の中国公船の侵入など、目に余る行状の数々は習近平指導部の信頼と信用を根底から揺るがせている。習近平指導部の行状をもはや看過できないと捉えたトランプ政権はここにきて反転攻勢をかけている感がある。この結果、米中新冷戦が動かぬ現実となろうとしているが、こうした事態を引き起こした遠因は既述のとおり、親中的なオバマ政権が表向きの国際協調という美辞麗句の下で、既存の国際秩序の現状を覆す目論見や企てを見逃し続けたことに起因するのであり、その責任は誠に大きいと言わざるを得ない。このことが今日のコロナ禍の間隙を突く習近平指導部の目に余る行状を生むことにつながっているのではなかろうか。(おわり)
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