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2020-07-08 00:00
(連載2)コロナ禍で揺れる「一帯一路」と「債務の罠」
斎藤 直樹
山梨県立大学名誉教授
上記のとおり、コロナ禍の以前から少なからずの国が債務の返済に苦しんでいた。しかも、こうした状況を直撃したのがコロナ禍である。現在コロナ禍の下で程度の差こそあれ、少なからずの被害に各国は曝されている。新型コロナウイルスの感染による直接的な被害もさることながら、経済活動に与える被害も甚大となっている。その結果、同ウイルスの感染が実際に収束していないとしても多くの国が経済活動の再開に踏み切っている。これまで債務の返済に苦しんできたのは上記のとおり一部の国々とされたのが、コロナ禍は事態を悪化させている。と言うのは、多額の融資を受けている多数の途上国で長期間にわたり経済活動が止まってしまい、その後経済活動を再開しているが資金繰りが急速に悪化してしまい、債務の返済の目途が一向に立たないという状況が生まれているとされる。「一帯一路」に参加する138ヵ国の加盟国のうち大半が途上国であるが、コロナ禍の下で借り受けた債務が膨らみ債務の返済に苦しんでいる。債務国が契約通りに債務を返済できないとして債務の返済条件の緩和を求める場合、どのように習近平指導部が対応するのか注目されるところである。
こうした状況の下で、2020年4月に重要な合意がG20で成立した。これにより、低所得国に対する二国間の融資の返済期限を2020年の終わりまで猶予することが決まった。しかしコロナ禍の煽りを受け2020年第1四半期の中国の経済成長率がマイナス6.8%を標すというこれまでになかった状況の下で、債務返済の条件の緩和に習近平指導部が応じる余裕などあるであろうか。習近平指導部の立場は「一帯一路」は経済援助ではなくあくまで融資であり、元金と利息の回収で譲歩しないであろうとみる報告がある。この結果、途上国が債務を返済できないのであれば、資産の差押えという強硬策もありうる。とは言え、習近平指導部にとってそうした強硬策はできるだけ避けたいところであろう。より長期的な視野に立ち、債務国が債務不履行に陥らないように、返済期間の延長や金利の減免など債務返済の条件を大幅に緩和することを習近平指導部が配慮する可能性がないわけではない。しかしそれでも債務国が契約通り債務を返済できない場合、債務不履行として差押えという判断に習近平指導部は至る可能性がある。また中国の金融機関が債務の取り立てに動く可能性もある。この意味で、「債務の罠」が現実に起こることになりかねない。
本来であれば、「一帯一路」構想は債務国も債権国もお互いがご利益にあずかるという論理に基づいている。そうでなければ、そもそも「一帯一路」が立脚する前提条件が崩れるであろう。ところが今、コロナ禍の下で現実となろうとしているのは、債務国が債務を一向に返済できずに債務不履行として差し押さえられるという最悪とも言える展望である。その意味で、コロナ禍は債務国だけでなく債権側の中国にとっても想定していなかった事態を生んでいると言えよう。債務不履行の危機が増大している下で、資産の差押えはこれから増加するのではないかと懸念される。しかしスリランカの事例を踏まえるまでもなく、今後、債務国の担保の差押えに習近平指導部が走るようなことがあれば、同指導部が悪徳高利貸しのレッテルを貼られるのは免れないであろう。
それでなくとも新型コロナウイルスの発生源であるだけでなくその感染拡大に対する情報統制を巡り、習近平指導部の信頼と信用は各国で揺らいでいる。そこにもってきて、高度な自治が認められているはずの香港の自治を事実上、剥奪するような香港国家安全維持法の施行を強行したことで、同指導部の信頼と信用は根元からぐらついていると言える。これと並行して、「一帯一路」構想に内在する歪や矛盾がコロナ禍の下で一挙に露呈している感がある。2013年に習近平指導部が多数の参加加盟国を募りそのインフラ整備を掲げ莫大な資金の提供を呼び掛け、「一帯一路」構想を発進させた原点は違ったところにあったはずである。債務国側と債権国側のお互いが潤うという発想に基づいたはずの構想が、コロナ禍の煽りを受け自国の経済状況が厳しいとして形振り構わず融資の回収を債務国に迫ったり、債務国の資産を担保として強引に差し押さえようとすれば、その信頼と信用は地に落ちかねないであろう。(おわり)
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