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2020-06-29 00:00
(連載1)コロナ禍の間隙を突く中国の強引な海洋進出
斎藤 直樹
山梨県立大学名誉教授
世界大国の実現を目論む習近平指導部が掲げる国家戦略の柱の一つは海洋進出であると考えられる。本稿はコロナ禍の中で猛然と進む感のある中国の海洋進出とわが国への深刻な脅威について取り上げる。中国の顕著な海洋活動の一つは南シナ海全域を領有しようとする、いわば「領海化」に向けた動きであると言える。中国は南シナ海のほぼ全域を覆う、いわゆる「九段線」を引き、これを根拠に南シナ海のほぼ全域に領有権を主張してきた。そうした中国の姿勢は誠に不可解である。現在の海の国際法は1982年に採択された国連海洋法条約(「海洋法に関する国際連合条約」)に定められている。中国も同海洋法条約の締約国である。南シナ海のほぼ全域に領有を主張していることは露骨な条約違反であることは一目瞭然である。上記の「九段線」に反発するフィリピンは常設仲裁裁判所に中国を訴え、2016年7月12日に同裁判所は「九段線」に法的な根拠はないとし、中国による南シナ海ほぼ全域への領有権の主張は否定された。しかし習近平指導部は同裁判所の判決を受け入れる姿勢を微塵もみせていない。
フィリピンだけでなくベトナム、マレーシアなど南シナ海に面する東南アジア諸国が中国の主張に猛反発しているが、効果的な対抗手段を持ちえない。中国はこれらの国々が無力であることを認識し、お構いなしに海洋進出を続けているのが現状である。そうした中で中国と近隣諸国の間で対立の焦点となっているのが南シナ海の南沙諸島である。南沙諸島には無数の島が点在する。とは言え、諸島という名称が付いているが、実際には環礁の集まりである。このうち、ガベン礁、クアテロン礁、ジョンソンサウス礁、スービ礁、ファイアリークロス礁、ヒューズ礁、ミスチーフ礁などを埋め立て、「人工島」に中国は造り替えた。しかもこれらの幾つかの「人工島」に軍事施設を建設すると共に、長距離滑走路を敷き空軍機の発着を可能にしようとしている。加えて、海軍基地やミサイル基地が建設されているとみられる。これが南沙諸島の「軍事拠点化」に向けた動きである。ここ数年でこれらの「人工島」が全く様変わりをしたことが報告されている。これに対して、近隣諸国は反論するが全く無力である。南沙諸島での中国の横暴な振る舞いに対し米海軍は「航行の自由」作戦と称して近接海域に米海軍艦艇をしばしば送り込んできたが、これといった牽制になっていない。
しかも各国が現在、コロナ禍への対応に追われている間、中国の海洋活動が日増しに露骨になっている。4月2日にベトナム漁船に中国の巡視船が体当たりし沈没させた。その後、4月13日に中国の空母・遼寧を中核とする中国海軍艦艇が南シナ海で軍事演習を強行した。また4月18日に南沙諸島と西沙諸島を中国の海南省の三沙市に組み込むと宣言した。これにより、南沙諸島は同市の南沙郡、西沙諸島は西沙郡とされた。中国による南シナ海の「領海化」に向けた横暴な動きと並行して進む東シナ海への海洋進出は、わが国にとって極めて憂慮すべき事態である。習近平指導部は海軍力の増強を背景に外洋である太平洋への進出を目指してきた。山東省の青島に中国人民解放軍海軍北海艦隊の司令部が置かれているが、中国海軍が太平洋に進出するためには幾つかの航路を選択する必要がある。太平洋への進出にとって妨げになるのは朝鮮半島と日本列島の存在であると言える。第一は日本海からオホーツク海を通過して太平洋に至る航路であるが、朝鮮半島と日本列島を迂回する必要があるため極めて遠回りとならざるをえない。第二は日本海から津軽海峡を通る航路であるが、これも同様に遠回りとなる。第三が沖縄本島と宮古島の間の宮古海峡を通過する航路である。第四は台湾海峡を通過し南シナ海を経て太平洋に至る航路であるが、これも遠回りとなる。これらの航路の中で宮古海峡を通過する航路が太平洋に抜ける上で最も近道であることは明らかである。こうしたことから、近年、宮古海峡を中国の公船がしばしば通過することが伝えられている。その航路に近接してわが国の領土である尖閣諸島があることに留意する必要があろう。
しかも今、コロナ禍の中で中国は南シナ海だけではなく東シナ海でも動きを活発化させている。4月11日に宮古海峡を中国海軍の空母・遼寧など中国海軍艦艇数隻が航行した後、12日に台湾付近の海域で軍事演習を強行した。これと並行して、尖閣諸島の領有が中国に揺さぶられていることに注視する必要がある。4月14日以降、連日、尖閣諸島の領海の外側の接続水域に中国海警局公船が侵入するという事態が続いている。こうした中で、尖閣諸島の領海内で極めて遺憾な事件が発生した。5月8日に同領海内で操業していた「瑞宝丸」という漁船が四隻の中国公船に追い回わされるという事件が起きた。このため海上保安庁の巡視船が漁船を警備する事態に及んだ。これに対し、数日後お馴染みとなっている趙立堅・中国外務省報道官が猛反駁するに及んだ。5月11日に「日本の漁船が中国の領海で違法操業した。海保が違法な妨害をした」と、趙立堅は声を荒げた。こうした発言は尖閣諸島が中国の領有下にあるとの前提で論じている。こうした状況を放置すれば、遠からず次の段階の行動に中国が乗り出すことを想定する必要が出てきた。(つづく)
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