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2020-06-18 00:00
(連載2)領土交渉で「ロシアが大幅な譲歩」は誤報
袴田 茂樹
CEAC有識者議員/青学・新潟県立大学名誉教授
ちなみに、安倍首相も日本政府も、4島における共同経済活動を「特別の制度の下で行うことに日露首脳が合意した」と以前発表したが、ロシア側はこの合意を否定している。現状でも、ビザなし交流では、島に上陸する手続きを日本側は「入域手続き」と言い、ロシア側は「入国手続き」と言って、法的なグレーゾーンにしている。ビザなし交流でもこれだけ難しいのであるから、本格的な共同経済活動を、法的グレーゾーンの下で行えるはずはない。
実は、4島での共同経済活動は元々ロシア側が、具体的には1990年代にプリマコフ外相(後首相)が強く主張していたもので、私が主宰する安全保障問題研究会は同氏と「日露専門家会議」を長年やってきたので、この問題についても突っ込んだ議論をして来た。かつて日露間に作られた4島における「共同経済活動委員会」も、「両国の立場を損なわない」、つまりロシア法の下では行わないとの条件を日本側がつけたので、実際には共同経済活動は進展しなかった。
しかし、安倍首相は日本の方から「新アプローチ」として北方4島での共同経済活動を提案し、2016年12月にプーチン大統領訪日の際には、共同経済活動のための「特別な制度」について合意したと首相、日本政府は発表した。しかし、その時のプレス声明では、ロシア側は「特別な制度」の文言を声明に入れることを拒否した。ロシア側はあくまでもロシアの法の下で行うという方針を放棄していないからだ。つまり、4島での本格的な共同経済活動は簡単には実施できないということである。だから私は日本側からのこの提案がなされた時には驚いて、わざわざ交渉のハードルを高めるナンセンスな提案だと厳しく批判した。というのは前述の、平和条約締結のためには「第2次世界大戦の結果を認めるのが前提」とのプーチン氏やロシア側の考えを知っていたからだ。平和条約を口にするのは、馬の前にニンジンをぶら下げ、日本が懸命にロシアに協力するのを求めているに等しい。その観点からすると、共同通信社の記事は国民や政治家をまた間違った方向に誘導する。
話は変わるが、この5月発日本政府発表の『外交青書』に対するロシア側の反応を紹介しておきたい。今年の青書では昨年の青書で削除された従来のわが国の対露交渉の基本方針、すなわち「4島の帰属の問題を解決して平和条約を締結する」という表現が復活された。また「北方領土(注、北方4島ではない)はわが国が主権を有する島々」とも記された。関心を引いたのは、この青書の内容の変化に関しロシアの主要メディアが、「日本はもはやロシアとの平和条約を期待していない」と題して「おそらく安倍は首相の任期を終える2021年の秋までにはクリル諸島が返還されるという望みを失った」と報じていることだ(『独立新聞』2020.5.20)。私は、ロシアの日本問題専門家の見解を引用したこの記事が正しいことをむしろ望んでいる。というのは、交渉ごとは焦った方が弱い立場になるし、日露間の領土問題は少なくとも今後数十年単位の課題だと考えているからだ。(おわり)
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