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2020-06-11 00:00
(連載1)日本企業の差し押さえ資産の現金化に動く文在寅
斎藤 直樹
山梨県立大学名誉教授
日韓関係は2018年秋以降今日まで、悪化の一途を辿っている感があるがその事由は文在寅政権、とりわけ文在寅大統領その人によるところが大であると言えよう。何と言っても問題の発端と言うべきは2018年10月30日に韓国の最高裁である韓国大法院が下した判決である。同判決はいわゆる「元徴用工」とされる四人の原告の訴えを認め、現在の日本製鉄(当時の新日鐵住金)に対し一人あたり1億ウォンの支払いを命じた。同判決は日本政府を震撼させることになったことは間違いない。と言うのは、それまで数十年間にわたり日韓両政府が堅持してきた基本路線を真っ向から覆す内容であったからに他ならない。振り返ると、1965年に日韓基本条約が締結され、日本と韓国の間で国交が樹立されたが、その際に締結されたのが日韓請求権協定ならびに経済協力協定であった。両協定にしたがい、日本が韓国に対し総額で5億ドルの経済援助を行う一方、韓国は一切の請求権を放棄した。同協定は第2条で「両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、・・完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する」とした。このとおり、放棄した請求権には国家としての請求権だけでなく個人としての請求権も含まれるとされ、しかもこれを完全かつ最終的に解決されたとした。協定の文言は明白であり、解釈の余地は生じに難いものである。その後、日韓両政府は同協定を遵守する形で、これを基本路線として踏襲してきた。
ところが上述の韓国大法院の判決はこれを文字通り、ひっくり返す内容であった。同判決は11名の多数意見と2名の少数意見に分かれた。多数意見は、日韓請求権協定だけでは個人の請求権は消滅したとはみることはできないとし、日本企業が原告への賠償責任を負うとした一方、少数意見は個人の請求権は消滅しており、そのため韓国側が原告の補償を行わなければならないとした。興味深いのは日本政府が長年にわたり堅持してきた路線に少数意見が類似した点である。いずれにしても、同判決を受け、日本政府は直ちに韓国政府に抗議を行った。翌日の11月1日に安倍首相は国会において極めて重大な問題提起を行った。首相によると、そもそも「徴用工」という言葉は不適切であり、これに代わり「旧朝鮮半島出身労働者問題」とすべきであるとした。その事由として、戦前・戦中において労働力不足を補うべく朝鮮半島出身労働者を多数動員する必要に迫られた。その際、三つの形態が採用された。一つは企業による募集であり、二つ目は政府による斡旋であり、三つめが強制徴用であったとされる。こうしたことから、強制徴用がなかったわけではない。いずれにしてもこの判決の四名の原告は全員、企業の募集に応じた方々であったとされる。そうであるとすれば、同判決が立脚するところの強制徴用という前提条件そのものが覆ることになりかねない。
日本政府の姿勢は一貫しており、同判決は日韓請求権協定に明白に反することから、国際法上の違法状態を引き起こしており、韓国側が問題の是正にあたらなければならないとするものである。これに対し、文在寅政権の姿勢は、三権分立の立場から司法府である韓国大法院の判決を尊重するとしたのである。その後、2019年の初めから徴用工問題の解決に向けて日本政府が韓国政府に再三にわたり働きかけたのに対し、文在寅政権はその度ごとにお茶を濁してきた。この間、日本側の不信感は極度に高まったことは間違いない。こうした下で2019年7月1日に行われたのが日本政府による対韓国輸出管理運用の見直しの発表であった。これによれば、フッ化ポリイミド、高純度フッ化水素、フォトレジストなど対韓国輸出三品目についてそれまでの一括審査から個別審査に切り替えるものであったが、これに対し文在寅政権は猛反駁に転じた。その後、8月2日に日本政府は韓国政府を輸出管理上、優遇措置を講じる対象国である、いわゆる「ホワイト国」から除外する措置を決定した。この「ホワイト国」からの除外がよほど頭に来たのか、即日、文在寅氏は「・・加害者の日本が盗人猛々しく大声をあげる状況を決して座視しない。挑戦に屈服すれば歴史はまた繰り返される・・我々は二度と日本に負けない」と声を荒げた。
その後、態度を一層硬化させた文在寅政権は8月22日に日韓GSOMIA(軍事情報包括保護協定)の破棄決定を行った。同破棄決定は日本政府だけでなく米政府をも少なからず動揺させた。と言うのは、同協定は日本と韓国の間の二国間安全保障協力であるだけでなく、米国から見れば、日米韓三国間の安全保障協力であるからである。しかも米政府にしてみれば、北東アジア地域における敵対勢力である中国、北朝鮮、ロシアへの対抗基盤として同協定を位置付けている。したがって、同破棄決定はトランプ政権にとって看過できるものではなかった。その後、トランプ政権は破棄決定を撤回するよう幾度となく文在寅政権に求めたことにより、11月22日に同協定は失効直前で辛うじて失効が回避されることになった。とは言え、文在寅政権は条件付きで同協定の延長に応じたと説明したのである。こうした経緯を踏まえ、日韓関係は相変わらずぎくしゃくしたままであった。(つづく)
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