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2020-05-19 00:00
(連載2)ウイルス発生源を巡り深まる謎
斎藤 直樹
山梨県立大学名誉教授
5月14日には中国に対するあらゆる選択肢も行使しうるとの対決姿勢を露にした。「できることは多い。いろいろなことができる。すべての関係を断ち切ることもできる・・すべての関係を断ち切ると、5000億ドル(約54兆円)を節約することになる」と、中国との断交もあることをトランプは示唆したのである。他方、5月8日にWHOは武漢市の海鮮市場が新型コロナウイルスの発生源と深く関与しているとの見方を強調した。WHOのエンバレク博士は、「市場が感染拡大に関連していることは明らかだ。発生源だったのか、感染が拡大した場所だったのか、それともたまたま一部の症例が市場や周辺で確認されたのか、どのように関係していたかは分からない」とエンバレクは述べた。この発言は重大性を持つ。同氏の発言の要点は海鮮市場を発生源とみなす中国当局の立場と必ずしも同一ではない。同市場が感染拡大と関連すると考えられないわけではないが、何らかの事由で外部から同ウイルスが市場に持ち込まれた可能性も視野に入れたものである。そのうえで、さらなる調査が必要であるとエンバレクは強調した。その海鮮市場は1月1日の段階で閉鎖され、消毒されている。今後その海鮮市場で調査が行われることになってももはやこれといった証拠があがるという見通しは立たない。そればかりか、習近平指導部は外部機関による調査を断固拒絶するとの立場を堅持している。
外部機関による調査の必要性は4月23日にモリソン・オーストラリア首相に提起されている。モリソンは「何が起きたのか、独立した調査が必要だ」と重大発言を行った。モリソンの言わんとするところは、これまで指摘されてきた数々の箇所で調査が行われる必要があるとしたが、これに習近平指導部は断固拒否の姿勢である。耿爽(Geng Shuang)中国外務省副報道局長は即日、会見で激しい口調で言いがかりをつけた。耿爽曰く、「オーストラリアが提案した、いわゆる独立した調査というのは、実際には政治的操作だ。オーストラリアはイデオロギー的な偏見を捨てなさい」と、高飛車にモリソンを諫めたのである。これほど、習近平指導部が外部機関による調査を拒む理由は何なのか、ますます疑問となってくる。少なくとも、武漢市の二つのウイルス関連研究所と海鮮市場などでの外部機関による調査が不可欠であろう。現在までに確実な証拠となるものはあがっていないものの、発生源を取り囲む疑惑は灰色とは言え、限りなく黒に近いと言わざるをえない。世界から向けられている重大な疑惑を払拭しようと真摯に考えるのであれば、中国当局は外部機関による調査を許可する必要があろう。これに応じない限り、ますます疑惑は深まる一方であると言わざるをえない。
そればかりか、コロナ危機への対応に各国が追われている間、南シナ海や東シナ海では中国の海洋活動が日増しに露骨になっている報道が伝えられている。4月2日にベトナム漁船に中国の巡視船が体当たりをお見舞いし沈没させた。その後、13日に中国の空母・遼寧を中核とする中国海軍艦艇が南シナ海で軍事演習を強行した。また南シナ海で近隣の東南アジア諸国と係争中の南沙諸島と西沙諸島を4月18日に中国の海南省の三沙市に組み込むと宣言した。これにより、南沙諸島は同市の南沙郡、西沙諸島は西沙郡とされることになった。南シナ海だけではなくわが国の領海付近の東シナ海でも中国は動きを活発化させている。4月11日に沖縄本島と宮古島の間の宮古海峡を中国海軍の空母・遼寧など中国海軍艦艇数隻が航行した後、12日にコロナ危機を巡り激しく争っている感のある台湾の付近の海域で軍事演習を強行した。また日中間で係争中の尖閣諸島の付近の海域では5月8日にわが国の漁船を中国公船が追い回すという事件が起きた。これまでなかったことがわが国の付近の海域で発生していることはもはや他人事ではないことを物語る。こうした中国の南シナ海や東シナ海での覇権主義的な動きの背景には米海軍の主力空母である「セオドア・ルーズベルト」、「ロナルド・レーガン」、「カールビンソン」、「ニミッツ」などが多数に及ぶウイルス感染者を抱え、機能不全とも言える状況に陥っているという事由もある。「鬼の居ぬ間の洗濯」よろしく、中国が暴れている印象を与えるのである。
一体、何を習近平指導部は考えているのか。中国国内で新型コロナウイルス感染は事実上、収束したことで余裕が生まれたため、対応に追われている周辺諸国の警戒心が緩んでいるこの時を絶好の機会として海洋進出の既成事実を積み上げようとしているのか。中国の覇権主義的な動きを前に我が国を含め周辺諸国は一様に警戒心を抱かざるを得ない。そもそも新型コロナウイルスの感染源が武漢市の海鮮市場なのか、ウイルス関連研究所であるか確たる証拠はないとしても武漢市であることは間違いないであろう。このウイルス感染が近隣諸国を含め世界全体に未曾有とも言える被害を及ぼしている最中に、ただの一度も謝罪することなく、中国や武漢市であるとは限らないと公然と発表し、世界はむしろ中国に感謝しなければならないと習近平指導部は言明している。こうした中国の言動を見るにつけ、中国共産党の支配する中華人民共和国という国家の本来の性格が明らかになったというべきではなかろうか、疑問が出てくるのも当然であろう。(おわり)
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