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2020-05-25 00:00
(連載1)コロナ危機における習近平の隠蔽責任とトランプ
斎藤 直樹
山梨県立大学名誉教授
新型コロナウイルスに感染した最初の患者が見つかったのは2019年12月1日であるとされる。その後、WHOが世界に「パンデミック(世界的流行)」を宣言したのは2020年3月11日のことである。この間、約100日間も経過していた。この時点での全世界の感染者数は11万8000人以上、死者数は4200人以上に及んだ。その後、5月24日現在、世界全体の感染者数は約526万人、死者数は約33万人以上に達する。このような爆発的な感染拡大を踏まえたとき、「パンデミック」の宣言はすでに時機を逸した感が否めない。明らかに何かがおかしいことに気づかざるを得ない。このことは時系列に振り返った時、明白である。本稿はこの間の推移を時系列に振り返りながら、何故、このような「パンデミック」を阻止することができなかったかについて考察する。12月1日に最初の患者が現れたことは2020年1月24日にイギリスの医学誌『ランセット(The Lancet)』に掲載された論文(“Clinical features of patients infected with 2019 novel coronavirus in Wuhan,China”)で言及されている。肺炎を患ったこの患者を診察したのは武漢市の金銀潭医院の医師であり、同医師が『ランセット誌』に寄稿した。ただし、最初の感染者は同ウイルスの発生源ではないかと目されている湖北省、武漢市の華南水産卸売市場と関係がないとみられる。水産卸市場と関りがあったとされる感染者が出るのは12月10日以降である。41人とされた患者のうち、27人が同市場との関連が疑われたが、その他の患者の感染経路については不明である。
その後、12月の終わりまでに武漢市の幾つもの病院に発熱など体調の異変で多くの患者が押しかけることになる。こうした中で中国の医師がSNSを通じ患者が出ていると発信した。この医師とは李文亮(リー・ウェンリャン)である。李文亮は医師仲間たちに、「華南水産卸売市場で7人のSARS(重症急性呼吸器症候群患者)を確認」したと伝えた。これはあくまで患者の治療に際し注意を喚起したものであったが、これを重大視した武漢市公安当局は「ネット上に事実でない情報を公表した」として李文亮を摘発した。その後、2月7日に李文亮医師は新型コロナウイルスに起因する肺炎で死亡している。翌日の12月31日に中国政府は武漢市で「原因不明の」肺炎の感染者集団が見つかったとWHOに伝えたとされる。同日、WHOは台湾当局からメールを受け取ったとされる。メールによれば、「武漢で非定型肺炎の症例が見つかり、地元当局はこの疾患が2002年から2003年にかけて774人が死亡した『SARSではない』と確信しているとの報道がある。」
1月1日に水産卸売市場は閉鎖され、翌日には消毒された。同日、WHOは原因不明の肺炎の流行という事態への対応を図るべく危機対応グループを設置し、5日に新型ウイルスについて「流行発生ニュース(Disease Outbreak News)」を配信した。また7日に中国政府が新型コロナウイルスを検出したことを受け、WHOは新型コロナウイルス(2019-nCoV)と命名した。1月9日に中国疾病予防管理センター(CDC)が新型コロナウイルスに関するゲノム配列決定を発表した。また同日、中国国営中央テレビ(CCTV)が武漢市で新型コロナウイルスが見つかったと報道した。とは言え、1月10日の時点で、WHOは「人から人への感染はない、または限定的」と考えていたとされる。しかし、1月14日にWHOのケルクホーフェ(Maria Van Kerkhove)は「限定的な人から人への感染が起きる可能性」があると警告した。ところが、1月19日にWHOのテドロス(Tedros Adhanom Ghebreyesus)事務局長が「人から人への感染リスクは少ない」とする不可解な発表を行った。しかし、国家衛生健康委員会ハイレベル専門家グループの委員長に就任した鐘南山(チョン・ナンシャン)は1月20日に「現在の統計によると、新型コロナウイルス肺炎は確実に人から人に感染している」と発表して、事態が切迫していることを公にした。このことはヒト‐ヒト感染が起きていると中国の専門家が警鐘を鳴らしているのに対し、肝心のWHO事務局長がヒト‐ヒト感染のリスクが低いと発言していたことを物語る。いずれの側が虚偽めいた説明をしていたことが後に明らかになる。
この頃、『シュピーゲル紙』はドイツ連邦情報局(BND)の極秘文書を手に入れたとされる。それによれば、にわかに信じがたい話であるが、1月21日に習近平国家主席はテドロスに電話を入れ、「コロナウイルスの人の間の伝染関連情報を統制し、パンデミックのような世界レベルの警告を延期してほしい」と頼んだとされる。後述のとおり、テドロスが世界に向けて「緊急事態」宣言を行うのは9日後の1月30日であり、「パンデミック」を宣言するのは49日後の3月11日のことである。もしもこれが真実であるとすれば、まもなく全世界で猛威を振るうことになる新型コロナウイルスの感染拡大させた重大責任は少なからず習近平にあり、これにテドロスが加担したことになろう。翌日の22日にテドロスはWHOの緊急委員会を招集したものの、緊急委員会は紛糾し、そのため「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」に該当することに合意をみなかった。それを受け、緊急委員会は後日、再び開催されることになったが、この22日の時点でWHOは世界に向けて警告を発信する重大な機会を逸したことになる。膨大な数に及ぶ中国旅行者が世界中に出かける中国の「春節」は数日後に迫っていたのである。1月24日に始まる「春節」が迫る中で、23日に習近平指導部は爆発的な感染が拡大しつつあった武漢市を文字通り封鎖すると共に、中国内の他の都市への移動を制限する決定を行った。しかし習近平指導部は「春節」での人の移動には何の制限を加えなかった。このことが世界中にウイルスをまき散らす決定的な事由となるのである。しかもこともあろうに、中国以外ではヒト‐ヒト感染は起きていないとWHOは発表してしまうのである。(つづく)
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