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2020-04-28 00:00
ベーシック・インカム導入論はあまりに拙速
倉西 雅子
政治学者
新型コロナウイルスの国民生活への影響は甚大です。こうした中、全ての国民に一律に給付金を支給するベーシック・インカム制度の支持派の勢いも増しており、誤報とはいえ(実際には、貧困層向けの給付制度…)、スペインではナディア・カルビニョ経済相が永続的な措置として同制度の導入を宣言したとする報道も駆け巡りました。コロナ禍を機としたベーシック・インカム制度の導入の主張は同国に限られたことではなく、日本国内を初め、各国の政界やメディア等においても散見されています。
ベーシック・インカムの導入を主張する人々は、同制度の導入によって‘この世の楽園’が実現するかのように語っています。人々は生きるために働く必要はなく、貧困層もなくなり、生計を気にすることなく好きな職業にも就け、加えて行政コストも削減できるのですから、良い事尽くめのように聞こえるかもしれません。しかしながら、ベーシック・インカム制度には、今日の経済システムの基盤を根底から崩壊させかねないリスクが潜んでいます。人類は集団を生存形態とし、自給自足ができる人は極めて稀です。人類の経済発展のプロセスを観察しますと、個々の間の自由な‘交換’が極めて重要な役割を果たしてきたことに気付かされます。全ての職業は他者に役立つものを提供することで成り立っており、その相互交換による非ゼロ・サム的な価値の創出によって富も生み出されているのです。ところが、ベーシック・インカムの基礎は、‘交換’ではなく、‘配分’にあります。
同制度は、人々の自由意思に基づく生産や消費という観点が抜け落ちており、社会・共産主義と同様に、‘上’から与えられる状況を以って経済の基盤と見なしているのです。壮大なる実験とも称された社会・共産主義が失敗に終わったように、政府への依存度が高まるベーシック・インカムの導入は、人々が自立性や自由を失う配分型の全体主義体制への入り口となるのかもしれないのです。
もっとも、資本主義もまた、経済システムの基礎を‘借金’に置き、人と人との関係が債権者と債務者という非対等な関係となり、かつ、その破裂によって人々の生活基盤を壊してしまうバブルを制御できない点等において重大な欠陥があり、こちらもまた今日にあって経済システムとしての問題が露わとなっています。新型コロナウイルス禍が経済システムの転換点となるならば、ポスト・コロナ時代にあって目指すべきは、社会・共産主義でも既存の資本主義でもない、人々の間の相互交換性を基礎とする、より公平であり、他害性がなく、相互の自立性や個性が尊重されるシステムではないかと思うのです。
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