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2020-04-08 00:00
(連載2)西側のメガネだけから見ては中国の強靭さを見誤る
加藤 隆則
汕頭大学長江新聞與伝播学院教授
今回、習近平政権による一連の新型コロナウイルス対策・対応の中で、注目すべき点は2月13日、湖北省と武漢市のトップが同時に更迭された人事である。同日の党中央発表によれば、蔣超良・湖北省党委員会書記に代えて応勇・上海市長を、馬国強・武漢市党委書記の後任に王忠林・山東省済南市党委書記が就くことになった。応勇氏、王忠林氏ともに公安部門の経験が長い。危機管理に際し、公安部門出身の指導者を投入するのは時宜にかなった人事である。とはいえ、世界が注視する騒動のただなかで省市トップ二人の責任を明確にし、更迭するのはかなりの荒療治だ。だが習近平は公安人脈を完全にコントロールしていることを示した。軍と並んで権力基盤の源泉である公安部門の掌握は、政権の安定に大きな意味を持っている。この人事は前指導者に対する懲罰であり、民意の圧倒的な支持を得ている点も見逃すことができない。つまり世論を読み込んでの臨機応変な宣伝工作である側面だ。この人事には前段がある。
6日前の2月7日、いち早く新型ウイルス拡散の危険を警告していた武漢の医師、李文亮氏が感染で死亡した。自分の命を犠牲にしてまで治療に力を注いだが、武漢市公安当局はそれまで李氏ら8人を「デマを流した」と犯罪者扱いし、反省文への署名まで求めていた。訃報はネットでのトップニュースとなり、「英雄」に対する哀悼、さらにそれを上回る市当局への「罵倒」であふれた。私の教え子たちもそれぞれのSNSを通じ、一斉に哀悼と抗議を表明した。情報を操作し、初期対応で失態を演じた政府の対応に、庶民の怒りが爆発したのだ。だが、中央の反応は早かった。『人民日報』が哀悼の記事を発表し、国家監察委員会も同日、武漢市の対応を調査するチームを派遣した。一週間を待たずに発表された両トップの更迭は、その調査を受けた最高レベルの処分である。庶民の怒りに応える、一応の決着にはなった。
きちんと民意を汲んで責任者を処分したのだから、さらに事態を拡大させ、社会不安をあおるような言論は許さない。これが党による情報統制である。自由な言論そのものに価値を置く西洋的価値観の知識人は反発するが、抵抗することの損得を秤にかける多くの庶民は受け入れている。ただし、今回の感染についていえば、独立性の高いメディアの的確な調査報道に加え、おびただしい数のSNSによる情報発信があり、デマや誹謗中傷を含め、日々あふれるほどの情報が流れたという印象だ。画一的な宣伝だけでみなが納得しているわけではない。個人情報の壁が大きく立ちはだかっている日本とは大きく異なる。
さまざまな事象の中で、一党独裁や情報統制のみを誇張し、政権の動揺や崩壊をあおる報道はそろそろやめたほうがいい。目線を生活者のレベルに落とし、この国を底から動かしている力にもっと目を向けたほうがよい。過去に、日本はこの国に対する認識を誤り、間違った道に進んだ。その原因については様々な分析や論考がされてきたが、そこに住む人々の素顔を知らなかったという点の反省は、なお生かされていないように思える。(おわり)
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