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2020-04-02 00:00
(連載1)新型コロナウイルス発生源を巡るミステリー
斎藤 直樹
山梨県立大学教授
現在、新型コロナウイルが世界各地で猛威を振っているが、新型コロナウイルスの発生源はミステリーに包まれたままである。本稿は同ウイルスの発生源を巡るミステリーの解明の鍵となりうる研究報告を概説すると共に、発生源を巡る米中間の激しい対立について焦点を当てる。そもそも新型コロナウイルスの感染により肺炎を発症した患者が出た地域は中国湖北省に位置する武漢市であり、その時期は2019年12月であったことは周知のとおりである。当初、41人の感染者が肺炎を発症したとされるが、その中で27人が同市の華南海鮮市場との関係を疑われた。これを受け、同海鮮市場において585に及ぶサンプルが採集されたが、そのうち33のサンプルから新型コロナウイルスが検出されたという。これにより、新型コロナウイルスは2003年に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)の原因となったSARSコロナウイルスと極めて類似していることが明らかになった。ところが、謎が残った。と言うのは、新型コロナウイルスを運んだのではないかと疑われたキクガシラコウモリ(rhinolophus affinis)が同海鮮市場で売買された事実はなかったからである。キクガシラコウモリの生息地は浙江省や雲南省であり、同海鮮市場から900キロ・メートル以上離れている。コウモリが市場に飛んできた可能性は考え難かった。
その後、2020年2月6日に衝撃的な内容の研究報告が学術誌の「リサーチ・ゲート(Research Gate)」に発表された。研究報告は広東省の華南理工大学の肖波涛(シャオ・ボタオ)教授らがまとめた「新型コロナウイルスの可能な発生源(“the possible origins of 2019-nCoV coronavirus”)」」であった。問題の海鮮市場でキクガシラコウモリが売買されていないことに注目した肖波涛教授は他の可能性を探った。肖波涛が疑ったのはウイルス関連研究所からウイルスが漏れた可能性であった。同教授は武漢市にある「武漢市疾病予防管理センター(the Wuhan Center for Disease Control Prevention (WHCDC))」と「中国科学院武漢病毒研究所(Wuhan Institute of Virology, Chinese Academy of Sciences)」に目を付けた。特に「武漢市疾病予防管理センター」は海鮮市場からわずか280メートルという至近距離に位置する。しかも、同センターは近年、コウモリを湖北省から155匹、浙江省から450匹を捕獲したとされる。捕獲されたコウモリの中にはSARSを引き起こしたウイルスを持つとされるキクガシラコウモリも含まれていた。同センターの研究員はコウモリの血液や尿が皮膚に付着したという経験があった。感染のリスクを恐れた研究員は自主的に隔離措置を講じたとされる。また新型コロナウイルスに感染した患者が駆け込んだ「ユニオン病院(the Union Hospital)」は「武漢市疾病予防管理センター」と近接していた。同病院の多数の医師達もまもなく同ウイルスに感染したとみられる。こうしたことから、同ウイルスが何らかの事由で上記のセンターから外部に流出し、人に感染した可能性があると肖波涛は推論したのである。
この研究所の他に同教授らが疑ったのは「中国科学院武漢病毒研究所」の可能性であった。ただし同研究所は問題視された海鮮市場から12キロ・メートルも離れている。研究報告の結論において肖波涛らはウイルス感染のリスクの高い研究所を人口密集地から遠方に移す必要があると警鐘を鳴らした。研究者としての良心に従っての警鐘であったと言えるが、習近平指導部を震撼させかねない内容の研究報告であることを肖波涛は自覚していなかったと考えられる。まもなく研究報告は削除され、同教授は消息を絶った。肖波涛の推論のとおりであるとすれば、世界各地で猛威を振っているウイルスの発生源は事もあろうに武漢市のウイルス関連研究所であったことになろう。この間、武漢市で爆発的な感染が起きたことを踏まえ、習近平指導部は武漢市を外部から閉鎖する行動に出たことは周知のとおりである。同ウイルスの発生源が武漢市の研究所である可能性が高いことは習近平指導部にとって認めがたい「不都合な真実」と言えた。ここで大任を任されたのが国家衛生健康委員会ハイレベル専門家グループの委員長に就任した鐘南山(チョン・ナンシャン)であった。2月下旬、鐘南山は「感染はまず中国で発生したが、ウイルス発生源が中国だとはかぎらない」と、武漢市どころか中国でない可能性もあると示唆したのである。
これに対し真っ向から反論したのがポンペオ米国務長官であった。中国政府関係者が問題の所在をうやむやにしようとしていると感じたポンペオは新型コロナウイルスの発生源は武漢市であり、それゆえに「武漢ウイルス」であると言い切った。こうした中で後に大混乱を招く事件が起きた。趙立堅(ジャオ・リジャン)中国外務省報道官は3月12日に「・・この感染症は米軍が武漢に持ち込んだものかもしれない。米国は透明性をもってデータを公開しなければならない。説明が不足している」とツイッターに書き込んだのである。趙立堅はフェイクニュースを装い、その責任を米軍に擦り付けようとしたことから相当悪質な情報操作であったと言える。中国共産党による一党独裁国家において、政府機関に属する人間が米国政府を激昂させる内容を個人的見解として述べることは考え難い。もしこの人物が個人的見解としてこうした発言を発信したとすれば、米中関係に重大な打撃を与えるとして叱責を受けることは免れず、この人物も消息を絶ってもおかしくはなかった。この発言がトランプ政権を激しく刺激したことは明白であった。これは後々、米中関係に重大な禍根を残しかねない問題発言となるであろう。翌日の13日の記者会見の席上、耿爽(コウ・ソウ)中国外務省報道官は「ウイルスの発生源については、国際社会の中でも異なった見解がある。科学的で専門的な意見を聞く必要がある」と、趙立堅をかばう発言を行った。(つづく)
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