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2020-02-06 00:00
(連載1)金正恩とトランプの脅しあい
斎藤 直樹
山梨県立大学教授
2019年末に朝鮮労働党中央委員会総会で金正恩・同党委員長は対米「正面突破戦」を掲げ、「近く」「新たな戦略兵器」で「衝撃的な行動」に打って出るとトランプ大統領を脅したものの、逆に1月3日にイランのスレイマニ司令官の殺害指令という形でトランプに脅し返された。その後、金正恩に「衝撃的な行動」を踏みとどまらせるべくトランプは1月8日の金正恩の誕生日を祝う親書を送った。これに対し、1月11日に金桂冠(キム・ゲグァン)外務省顧問が猛烈に批判した。「国連制裁と国の中核的な核施設を丸ごと換えようと提案したベトナムでのような協商は二度とないであろう」と金桂冠は脅し、「今後、再び我々が米国にだまされてかつてのように時間を捨てることは絶対にない」と言い放ったのである。2020年2月末のハノイでの第2回米朝首脳会談でトランプ側の罠に金正恩がはまったかのような印象を金桂冠が与えようとしたが、本当のところはどうなのであろうか。そもそも「非核化」という概念を持ち出したのは金正恩側であった。2017年の終わりに朝鮮半島情勢は一触即発の危機を迎えた感があったが、この期に及んで、金正恩が突如唱えだしたのが「非核化」であった。当時、トランプ政権の高官達は異口同音に時間は余り残されていないとして、北朝鮮の核・ミサイル関連施設に対する空爆の可否を同政権は検討した。また2017年に相次いで採択された国連安保理事会決議に基づき経済制裁が実施に移され、金正恩体制は次第に窮地に追い込まれだした。
こうした中で、金正恩は急転直下、「非核化」を声高に唱えだしたのである。それまで強硬一辺倒の金正恩の言動に踏まえると、「非核化」はにわかに信じ難いことであった。こうした状況に手を差し伸べたのが文在寅大統領であった。その後、色々取りざたされることが多い文在寅があるが、この時、文在寅の仲介外交を通じ、金正恩がトランプとの接近を果たしたことは事実であった。金正恩が2018年4月20日の朝鮮労働党中央委員会総会で「経済建設に総力を集中することに関する新たな戦略的路線」を掲げ、経済建設を前面に打ち出し核実験の中止やICBM発射実験の中止、核実験場の廃棄を宣言した。「非核化」に向けたこうした金正恩の動きはその後、6月12日のシンガポールでの第1回米朝首脳会談を導いた。席上、金正恩はトランプを前にして北朝鮮の「完全な非核化」を約束したのである。ところが、その後「非核化」に向けた動きは遅々として進んでいない。この間、核兵器一発さえ、金正恩は廃棄していないのが実際である。核実験場の復旧が進み核実験が実施可能とみられる一方、東倉里(トンチャンリ)のミサイル発射場も復旧が進み再使用可能と目される。
2019年12月に金正恩指導部は2度にわたりICBM用の新型ロケットエンジンの燃焼試験を行った。突如、ロケットエンジンの燃焼試験が強行されたことは世界を唖然とさせた。ICBMの技術開発は着々と進んでいたことが明らかになったからである。このことは「非核化」を金正恩が掲げながら、外部から目の届かないところで核・ミサイル開発を黙々と進めていたことを物語った。この間、米情報機関はひっきりなしに金正恩指導部による核・ミサイル開発が継続していると警鐘を鳴らしていたにもかかわらず、トランプ政権はそれを見逃し続けた。この結果、金正恩にトランプは見事に欺かれたことになる。トランプが経済制裁を解除あるいは緩和しないゆえに、「非核化」に応じられない旨の主張を金正恩は繰り返しているが、最初から「非核化」に応じる用意など金正恩にはなかったと言わざるを得ない。このことは上述のとおり、2018年4月に中央委員会総会で金正恩が宣言した当時から予見されていたことである。こうしてみると、「・・我々が米国にだまされてかつてのように時間を捨てることは絶対にない」と金桂冠が発言したが、全くの詭弁と強弁に過ぎないことは明らかである。
しかも金桂冠が「国連制裁と国の中核的な核施設を丸ごと換えようと提案したベトナムでのような協商は二度とないであろう」と言い放ったが、そうした取引を言い出したのも金正恩であった。2018年9月中旬に第3回南北首脳会談が開催され、平壌共同宣言なるものが発出されたが、その中で金正恩がほのめかした「非核化」の概要が明らかになった。金正恩によると、「非核化」とは寧辺核施設の廃棄を意味した。その後2019年2月末のハノイでの第2回米朝首脳会談において金正恩は自説を繰り返した。すなわち、寧辺核施設を廃棄する見返りとして、経済制裁の全面解除をトランプに求めたのである。こうしてみると、制裁解除と核施設の廃棄を取引しようとしたのは、金正恩であったことが明かである。この間、自らを交渉人と自認するトランプが金正恩の言葉に翻弄されたことがなかったわけではない。その背景には、金正恩との個人的友好関係を自らの貴重な外交成果としたいという下心がトランプにあった。この結果、2019年5月に突如始まった小規模の軍事挑発をトランプは見逃し続けた。安保理事会決議に違反するにもかかわらず、金正恩指導部が頻繁に強行した短距離弾道ミサイルの発射実験は十回以上に及んだが、トランプは見て見ぬ振りを続けた。(つづく)
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