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2020-01-17 00:00
(連載1)トランプからの警告
斎藤 直樹
山梨県立大学教授
2019年12月28日から31日まで、四日間ぶっ続けで開催された朝鮮労働党中央委員会総会において、金正恩朝鮮労働党委員長はトランプ大統領に対し恫喝ともとれる演説を行ったことで、米朝関係は新たな段階に入ったと言えよう。同総会で金正恩は米国に対する「正面突破戦」という言葉を連呼しながら、重大な問題提起を行った。金正恩によると、2018年4月以降、核実験場の閉鎖、爆破に始まり、核実験停止、ICBM発射実験停止など、自主的な非核化措置を講じたにもかかわらず、トランプ側は一向に経済制裁を解除しない。この結果、北朝鮮人民は甚大な苦しみに苛まれている。したがって、もはや非核化という公約に縛られる必要はなくなった。その上で、金正恩は「近く」、「新たな戦略兵器」を用いて「衝撃的な行動」に打って出ると言い放ったことは周知のとおりである。この三つのキーワードには重大なメッセージが含まれていることは明らかである。「近く」とは、一体いつのことなのか。「新たな戦略兵器」とは、どのような兵器を意味するのか。さらに「衝撃的な行動」とは、どのような行動を指すのか。様々な憶測や推測を呼ぶことにつながったのである。
「近く」という限り、当初2020年1月8日の金正恩の誕生日から2月16日の父・金正日の生誕日頃までの期間であろうとみられたが、その後4月15日の祖父・金日成の生誕日頃までも含まれるのではないかと推測されている。また「新たな戦略兵器」というからには、米国本土に直接、甚大な脅威を与えうる兵器であること、また12月に実施された2度のロケットエンジン燃焼試験を踏まえると、おそらく新型の多弾頭ICBMではないかとみるのが大方の推測である。さらに「衝撃的な行動」に打って出るとは、多弾頭ICBMを深夜に移動式発射台から通常軌道で打ち上げ、日本領空を突破させ米国本土と近接した太平洋上に打ち込もうとしているのではないかと危惧される。もしもそうした軍事挑発の強行を許すことがあれば、トランプ政権だけでなく米議会、米国世論、メディアを含め全米が騒然となることは必至である。これがトランプに対する重大な恫喝になったことは明らかである。
2018年6月のシンガポールでの第1回米朝首脳会談以降、一貫して金正恩との個人的な友好関係をアピールしてきたトランプは12月上旬から金正恩への姿勢を徐々に変え始めた。その発端となったのは、12月3日にイ・テソン北朝鮮外務次官が「我々が米国に提示した年末の期限が日々迫っている」とした上で、「残されているのは米国の選択であり、近づくクリスマスプレゼントに何を選定するかは全面的に米国の決心にかかっている」とトランプを脅したことであった。ちょうど同じ頃、トランプも金正恩を揺さぶる言葉を発した。「我々は軍事的にいつよりも強力である。我々は世界で軍事的に最も強力な国である」とした上で、「私はこれを使用する必要がないことを望む。しかし我々が必要なら使用する」と発言した。この発言はこれまで金正恩による度重なる軍事挑発に対し特段、気に留めないと金正恩を常々擁護してきたトランプが久々に北朝鮮への軍事力の使用の可能性を示唆した瞬間であった。トランプの発言に今度は朝鮮人民軍幹部が過激に反応した。朴正天(パク・ジョンチョン)総参謀長は「自国が保有する武力を使用するのは米国だけが持つ特権ではない」とした上で、「武力の使用は米国にぞっとすることになるはずである」と凄んだ。
続いて、まもなく実際の行動に金正恩側が打って出た。12月7日に東倉里(トンチャンリ)でICBMのロケットエンジンの燃焼試験が行われた。同試験について、北朝鮮国防科学院報道官が「2019年12月7日午後西海(ソヘ)衛星発射場で非常に重大な試験が進められた」と論評したが、ICBM打上げ用の固体燃料の燃焼試験であったとみられた。ロケットエンジン燃焼試験がトランプを刺激したことは言を俟たない。トランプは12月8日に、「金正恩氏は敵対的に行動するにはとても賢く、失うことが多い人」であるとし、その上で「彼はシンガポールで強力な非核化協定に署名し、米国大統領との特別な関係を無効にしたり、11月米国大統領選挙に干渉したりしたくないだろう」とツイートした。これに対し、李洙墉(イ・スヨン)労働党国際担当副委員長は「トランプは非常にいら立っているだろうが、全てのことが自業自得であるという現実を受け入れなければならない」と、トランプを猛批判したのである。その後またしても西海衛星発射場においてロケットエンジン燃焼試験が行われた。「12月13日の22時41分から48分まで、西海衛星発射場では重大な試験がまたもや行われた」と『朝鮮中央通信』は12月14日に北朝鮮国防科学院の発表を伝えた。(つづく)
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