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2020-01-07 00:00
(連載2)金正恩からの新年プレゼント
斎藤 直樹
山梨県立大学教授
ところが、上述の中央委員会総会において金正恩が「新たな戦略兵器」を用いて「衝撃的な行動」に打って出ると示唆したことにより、ICBM発射実験が排除されていないという見方が出ている。「新たな戦略兵器」と金正恩が言及したことを勘案すると、これまでとは一線を画する実験を金正恩が強行するであろうと受け止められている。有力視されるのは多弾頭ICBMではないかという見方である。多弾頭ICBMとはミサイル1基に複数弾頭を搭載するICBMであり、難度の極めて高い技術が求められる。個別の弾頭が予め設定された別々の目標に向けて飛行する結果、複数の目標を一挙に破壊することが可能とみられる。しかも単弾頭ICBMに比較して多弾頭ICBMの迎撃は格段に難しくなるとされる。12月7日と17日に東倉里のロケット発射場で行われたロケットエンジン燃焼試験は記憶に新しい。しかも17日の燃焼実験は約7分間に及んだとされるが、このロケットエンジンが新型ICBMに使われることがあれば、総量1,000キログラムを上回る重量の弾頭を搭載できるのではないかと推察される。このことから、複数の弾頭が搭載可能ではないかとみられるのである。しかも多弾頭ICBMの射程距離は「火星15」型と同等の13,000キロメートルに達するのではないかと目される。これにより、多弾頭ICBMは1基で米国本土の複数の都市を一挙に叩くことができるのではないかと危惧されるのである。
2017年7月と11月に強行されたICBM発射実験では「ロフテッド」軌道と呼称される打上げ方式が採用された。すなわち、北朝鮮領内からICBMをほぼ垂直に打ち上げ、日本海に落下させる方式であったが、金正日の言うところの「衝撃的な行動」という言葉は不気味さを漂わせる。ICBMを「ロフテッド」軌道ではなく通常軌道で発射し、日本領空を突破させ米国本土から遠くない太平洋海域に着弾させるのではないかと危惧される。 他の選択肢として、「新たな戦略兵器」がSLBMを指すのではないかという見方もある。2019年10月に「北極星3」型SLBMの発射実験が強行されたが、その際、同SLBMは海中に設置されたバージ船から発射された。こうしたことから、2019年7月に金正恩が視察したとされる建造中の3,000トン級潜水艦から「北極星3」型が発射される可能性も取りざたされている。「北極星3」型は以前に試験された「北極星2」型と同等の約2,000キロメートルの射程距離を誇るのではないかと目される。3,000トン級の潜水艦は3基の「北極星3」型SLBMを搭載可能と推察される。これまでSLBMについても「ロフテッド」軌道での発射実験が行われたが、金正恩が「衝撃的な行動」と言及したことで、「北極星3」型SLBMを通常軌道で発射し、日本領空を突破させ太平洋上に着弾させることも推測されている。
既述のとおり、金正恩が「新たな戦略兵器」で「衝撃的な行動」に打って出ると発言したことで、人工衛星打上げを偽装した長距離弾道ミサイルの発射実験の可能性はやや低くなった。とは言え、この可能性は依然として考えられる。挑発度という点で言えば、上述した幾つかの選択肢に比較して人工衛星打上げが低いことは確かである。1998年8月に金正日は人工衛星打上げを偽装したテポドン1号発射実験を強行した。テポドン1号は日本領空を一気に突破し、太平洋に落下した。同ミサイル発射実験は当時の小渕内閣だけでなくクリントン政権に深刻な衝撃を与えた経緯がある。その際、金正日指導部はいかなる主権国家にも宇宙の平和利用として人工衛星を開発する権利はあると力説した。その後、2006年7月以降、金正日指導部は人工衛星打上げに名を借りて長距離弾道ミサイルであるテポドン2号やその改良型の発射実験を繰り返した経緯がある。
宇宙の平和利用として人工衛星打上げを銘打つ限り、事前に打上げを予告すれば中国やロシアから黙認される可能性があると、金正恩は希望的観測を抱くかもしれない。また過去二年間、金正恩との個人的な友好関係を事あるごとに強調してきたトランプも人工衛星打ちを黙認する可能性があると、金正恩は高を括るかもしれない。ところで、人工衛星打上げ実験とICBM発射実験は極めて類似した技術が使われる。打上げロケットの上部に装着された人工衛星を核弾頭に置換すれば、そのままICBMとなることから、人工衛星打上げを偽装した長距離弾道ミサイル発射実験とは事実上のICBM発射実験であると言えよう。ICBM開発において最大の課題の一つは核弾頭の大気圏再突入技術であるとされる。人工衛星打上げを装って再突入体を大気圏に再突入させることができれば、ICBMの完成に向けて極めて重要な前進になろう。いずれにしても金正恩が瀬戸際外交に打って出たことは明らかである。瀬戸際外交とは極限とも言える危機を自ら作り出し、これに慄いた相手側から大幅な譲歩を勝ち取るという金三代にわたる戦術である。しかし一度相手側の対応を見誤ることがあれば、その先に待ち受けているのは大破局であろう。(おわり)
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