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2019-12-21 00:00
(連載2)失効回避された日韓GSOMIAの憂うべき展望
斎藤 直樹
山梨県立大学教授
その文在寅は2017年10月に習近平と米国のMD(ミサイル防衛)に韓国は加わらない、日米韓三国軍事同盟を韓国は推し進めない、THAADの追加配備を韓国は行わないとした「三不約束」を結び、習近平にすり寄りだした。この結果、米中両方の顔色を文在寅はうかがっているかのようにみえた。それでも習近平が文在寅を冷遇すると、日米韓三国安全保障協力の推進を求めるトランプからできるだけ距離を置こうとした。こうしてみると、2019年8月22日のGSOMIAの破棄決定は日本の輸出管理上の見直しへの対抗措置という二国間の問題だけではなく、アジア・太平洋地域、さらには世界大での米中対立構造の中で捉えることができよう。そうした文脈において、GSOMIAの破棄決定は文在寅による習近平への接近を示唆するシグナルとみることが可能である。他方、トランプ政権がそうした大きな枠組みから同問題を捉えているからこそ、政権高官達を続々と訪韓させ文在寅にGSOMIAに留まるよう要求したと言えよう。こうした視点に立てば、文在寅がGSOMIAの破棄を決定したのは計算づくの上の決断であったとも言えよう。
GSOMIAの失効をなんとしても食い止めたいトランプ政権に対し、すべては安倍内閣による韓国に対する輸出管理の見直しに事由があるとして、GSOMIAからの離脱とその失効はやむなしとの主張を文在寅は変えようとしなかった。これに対し、もしGSOMIAを失効させるようなことがあれば、ペナルティとして在韓米軍の縮小はおろか、将来の撤収もありえるとの姿勢を示すと共に、韓国側に対し5倍増の駐留経費負担を要求するという強硬姿勢を続けたことは既述のとおりである。そうした強烈な圧力が功を奏したのか、GSOMIAの失効は一先ず食い止められる形となった。とは言え、トランプ政権が5倍増の駐留経費負担を取り下げたわけではない。他方、これ以上の駐留経費負担にはとても応じられないとして在韓米軍縮小、ひいては撤収も受け入れざるをえないと文在寅が考えているとすれば、これは重大な結末を招きかねない。すなわち、在韓米軍縮小、ひいては将来の撤収が現実に起こりかねない。
もしも将来、在韓米軍が撤収することがあれば、朝鮮半島有事の際に韓国領域外から米軍が駆け付け韓国防衛に当たる可能性は低くならざるをえないであろう。また北朝鮮が韓国に対して核による恫喝を行っても、それに対し米国が「核の傘」としばしば呼称される拡大抑止を提供し続けることも考え難い。そうした状況の下で、韓国は一体、どのように安全保障・防衛措置を講ずるのかという疑問が生じかねない。そうした事態を憂慮しているのが韓国の保守派層であり、自前の核保有をやむなしと考え始めていることは既述のとおりである。これに対し、文在寅は全く違った視点から捉えかねない。そうした状況の下で、日米韓安全保障協力の枠組みから離脱して中国や北朝鮮との安全保障協力を推進するという選択肢が出てきかねない。もし将来を見据えて文在寅や青瓦台の取り巻き連中がそうした目論見を持っているとするならば、駐留経費負担額を5倍に引き上げようとするトランプの要求は真逆の結果を招きかねない。こうした法外な要求はむしろ文在寅の望むところであり、これを大歓迎するのは習近平であり、金正恩であろう。皮肉なことに、駐留米軍経費負担額の大幅引き上げについて、トランプと文在寅の思惑が重なり合っていると言えないわけでない。
文在寅政権にあって醜聞塗れの曹国(チョ・グク)の法務長官任命があまりに多くの物議を醸したことから、曹国に焦点が当たったが、文在寅の取り巻き連中には常軌を逸したと思われる発言を繰り返す人物はまだまだいる。その代表的存在は文正仁(ムン・ジョンイン)大統領統一外交安保特別補佐官である。これまでも事あるごとに誤解と混乱を招く文言を並べてきたが、米韓関係に著しい打撃を与えかねない発言を最近も続けている。9月9日には「・・国連安保理事会の制裁決議に引っ掛からない金剛山観光をなぜ運用しないのかと、青瓦台の前で、米国大使館の前でデモする市民の行動だけが変えることができる」と焚きつけた。これに呼応するかのように、10月18日に学生達が駐韓米大使館に入りこんで取り押さえられるという事件に発展したことは周知のとおりである。ハリス大使は事なきを得たが、米国への抗議行動を青瓦台の高官が焚きつけるというのは明らかに尋常でない。さらに12月4日に同じ人物が「・・もし在韓米軍が朝鮮半島で非核化を実現できずに撤退するなら、中国に来てもらって『核の傘』を提供してもらってはどうか」と、さらに米韓関係を著しく刺激しかねない言葉を並べた。GSOMIAの失効が一先ず回避されたとはいえ、金正恩指導部による人工衛星打上げを偽装した長距離弾道ミサイルや2017年11月以降中止されているICBM発射実験やはたまた核実験といった大規模軍事挑発の再開の可能性と連動して、これから起こりうる事態は実に憂慮される展望なのである。(おわり)
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