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2019-12-12 00:00
(連載1)ブーゲンビル独立問題:東西対立の視座
宇田川 敬介
作家・ジャーナリスト
戦後すぐから20世紀の終わりくらいまでは、イデオロギー対立があり、「民主主義」と「社会主義」の対立があって、東西冷戦であったのだが、90年代に旧ソ連が崩壊したことによって、古い時代を知っている人は「社会主義=グローバリズム」と「民主主義=ナショナリズム」というような発想があったことを思い出すかもしれない。実際はそうではなく、民主主義・資本主義経済の場合、自由に経済活動が行えることが発展の重要条件になってしまい、その自由な経済のために、資本主義が徐々にグローバリズム化してゆくことになった。
当初の東西対立は、イデオロギー中心に争いが起きていたため、経済は副産物的にしか考えられていなかった。しかし、長きにわたり大きな戦争がなく、対立の主戦場は経済に移ることになった。経済を政治が統制しない民主主義自由主義経済の中では、政治と経済は別物になり、その経済の発展こそが国民の重要な関心事となりうることになる。そのために、経済の発展のための邪魔な障害、つまり国境と関税という二つのものが徐々に邪魔になり、資本主義社会こそが、グローバリズム化していったのである。
一方、ソ連崩壊後の社会主義諸国は、イデオロギーを捨ててしまったので経済しかない。しかし、一気に社会主義を捨ててしまえば、それまでの独裁者に対する不満が爆発し、革命が起きるか国家が分裂する。ルーマニアやユーゴスラビア、チェコスロバキアなどがよい例だ。国家運営が破綻しては元も子もないので社会主義諸国は積極的に市場経済を取り入れたが、西側水準の資本主義を導入することは困難なため徐々に「経済のガラパゴス化」が起きた。そして、共産主義の国家だけで「市場主義」経済を回す「共産主義ナショナリズム」が始まるのである。要するに「自由経済グローバリズム」と「共産主義ナショナリズム」の対立が21世紀の対立であり、それは経済活動を政治が管理するかどうかということにほかならない。
そして、その東西のはざまで発展途上国が翻弄されている。例えば、アフリカや東南アジア諸国連合(ASEAN)、南太平洋諸国というのは、共産主義にもならず、また、資本主義にしてもこれといった産業がなく比較的貧しい国が多い。中東のアラビア半島などは、宗教的なグローバリズム(イスラム教による国家共通性)と、地下資源の恩恵があったことから、最貧国になることはなかった。しかし、長く植民地であったアジアやアフリカなどでは、低い生活水準が恒常化している国がしばしば見られ今も遠い平和と発展のためにもがき苦しんでいる。直近のニュースになったものでは、パプア・ニューギニアのブーゲンビルの独立をめぐる住民投票が好例だ。パプア・ニューギニアは、19世紀以降オランダ・ドイツ・イギリス・オーストラリアの植民地を経て、1975年に独立するも、31年前にブーゲンビルを巡って起きた内戦が尾を引いている。今回の住民投票を以て、ブーゲンビルの有権者約20万7000人は、23日から2週間にわたって実施される住民投票で、完全な独立か、人口800万人を有するパプア・ニューギニア下での自治拡大かのいずれかを選択することになっている。(つづく)
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