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2019-12-06 00:00
(連載1)踊り場の日本食の海外展開
岡本 裕明
海外事業経営者
数年前、在外公館(大使館や領事館)が日本酒を紹介するプログラムを積極的に取り入れていたことがあります。過去形にしたのは、今はその当時のようなキャンペーンが減ったからです。これは外務省や農水省が主導した日本酒や日本の農産物や食品を海外に広く普及させる一環でした。在外公館で毎年必ず開催され地元の要人が数多く参加する「天皇誕生日式典」ではホテルが提供するフードではなく、日本酒や日本食を積極的に取り入れる動きもありましたが、今は少なくなった気がします。その間それでも日本酒は普及しました。海外だけで見ると10年でざっくり4倍になっています。確かに酒屋の棚を見ても日本酒の種類は数倍に増えました。価格がいまだにワインの2倍ぐらいするのが残念ですが、外務省・農水省のプログラムはそれなりに効果があったのではないでしょうか。
また、訪日外国人が経験した良き思い出を友人たちとシェアするという動きもあり、あの時食べたあれこれを土産話とともに楽しんでいることもあるでしょう。ちなみに日本酒の輸出先は概ね45%ぐらいが東アジア各国、20%強がアメリカとなっています。東アジア各国では日本食が違和感なく普通に楽しまれていることが大きいと思います。アメリカではまだ日本酒は知識人的な感覚(=日本で昔いわれたハイカラ感)はあると思います。特に合わせるフードが自宅では作りにくいことはネックでしょう(日本酒には西洋人の味覚的に重要な酸味がないことがひとつネックとされます)。
日本食はどうでしょうか。2015年ごろには農水省が正しい日本食の普及を目指してさまざまな仕組みを作り上げたのですが、多分失敗したと思います。理由として、料理は国境を越えてフュージョン化する傾向が強く、〇〇料理というカテゴリーや垣根がなくなる傾向が見てとれるからです。
今、海外で寿司を食べるには苦労します。かつて寿司職人として海外移住した人たちは高齢化し、店をたたむ人が増えているからです。若手の飲食従事者は起業しても20年ぐらい前に流行った居酒屋、あるいはこの10年で大きく普及したラーメン店経営が多く、良い日本酒を飲みたくなる食材にありつけないのがネックであります。もちろん、NYあたりでお金に糸目をつけなければ別ですが、そういうところに自腹で行ける日本人はわずかでしょう。海外における日本食の認知は寿司、ラーメン、たこ焼きとなっているところに一つの関門がありそうです。日本人そのものも日本酒を飲まなくなり、若い人が日本酒に合う料理もなかなか食べなくなっているのですから海外に日本酒や日本食を普及させる以前の話なのかもしれません。(つづく)
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