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2019-11-15 00:00
選挙に勝つ能力と政治的能力は別
中村 仁
元全国紙記者
閣僚の相次ぐ辞任、失言などをめぐり国会で集中審議が行われました。安倍首相は「任命責任は私にあり、国民に陳謝する」、「辞任した閣僚は自身の責任において、説明されるべきだ。命令はしない」と、答弁しました。追及する野党は新しい材料を突きつけることもなく、実りのない論戦でした。
大学入試テストのあり方を考える絶好の機会にはなりました。英語民間試験は見送るにしても、国会議員に対してこそ、導入してもらいたい共通テストがあります。政治資金規正法や公選法などの基礎知識、政策判断能力、国語力というか言語表現力、それと社会的常識もチェックするテストです。これから大学に進学したいという若い人たちだけを試験で苦しめるのは、フェアではありません。官僚には国家公務員試験、弁護士には司法試験、官邸に頭が上がらなくなった日銀にも採用試験、民間企業には入社試験があります。議員だけが人気度、好感度、その時々の風という得体のしれない要素で、多くの当落が決まるのは疑問に思います。
閣僚の不祥事や失言に接して、思いだしたのが最近、読んだ出色の書評です(読売10/13)。米国の有力シンクタンクのハーラン・ウルマン氏の「アメリカはなぜ戦争に負けたのか」(中央公論新社」という新刊の書評を、篠田秀郎・東外大教授が書いています。「著者が歴代大統領に向けた批判は鋭く、カミソリのようだ」と。さらに「多くの大統領たちは、選挙に勝つ能力には優れてはいる人物でしかなく、経験や判断が不足していた。また、選挙での論功行賞による人事を優先させ、ご都合主義、達成不可能な野心、例外主義による過信、集団思考、党派主義に陥りがちだった」と。
「選挙に勝てる能力」と「よい政治をする能力」の差は大きくなる一方でしょう。辞任した河井法相、菅原経産相、「身の丈発言」が祟った萩生田文科相も選挙に勝つ能力には優れ、当選回数を重ねたから、閣僚ポストまでたどりついたのでしょう。篠田氏が書評で触れた「選挙(日本の場合は総裁選)での論功行賞による人事」であったのかもしれません。政治家に求められるモラルを持ち、大きな視野で世界や時代をみる。同時に複雑に絡みあう諸問題を裁く。そうした能力があるかというと、そうでないこと多い。新聞社説を読むと、「閣僚辞任が映す長期政権の緩み」(日経、11/1)、「緩み排し政策遂行あたれ」(読売11/1)と、平凡な指摘です。「緩み」から次々に問題が起きているのかというと、そうではない。「高をくくっているのだとたら、同じ過ちが繰り返される」とは、朝日の社説です。「緩み」とか「高をくくる」とかの次元でいつまで語るつもりか。もっと根源的な問題点を指摘してもらいたい。
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