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2019-11-05 00:00
(連載2)わが国への米国の中距離ミサイルの導入問題
斎藤 直樹
山梨県立大学教授
トランプ政権にとって喫緊の課題となったのは北朝鮮による核ミサイル開発に楔を打ち込むことに加え、猛然と進む中国の海洋進出と猛進を続ける核軍拡への対抗策を講ずることであった。さらにロシアによるINF全廃条約違反の動きにも対処しなければならなかった。プーチン政権は2017年以降、中距離射程のSS-C-8地上発射巡航ミサイルを展開したことが明らかになると、INF全廃条約に違反するではないかとトランプ政権が猛抗議したが、結局無視される格好となった。そうした中で、いよいよ同条約の存続の是非の検討をトランプ政権は迫られた。同条約の枠外にいた中国が猛然と中距離核戦力の配備を進めたことも重なり、トランプ政権は2019年2月1日に同条約からの離脱を宣言するに至ったのである。この間、対北朝鮮だけでなく対中国対抗策について米国防関係者達の間で頻繁に論じられ、また幾つもの報告書が刊行された。その中心議題の一つは中国の中距離核戦力の増強にいかに対処するかであり、そのためには中国沿岸から約450キロ・メートル内に集中する重要拠点を射程内に捉えることを可能にすべく、射程距離3000キロ・メートル相当のミサイルをアジア・太平洋地域に配備することが望ましいと提唱する内容の報告書が米国内で公刊された。
その後8月2日にINF全廃条約が失効するのに合わせる形でオーストラリア、日本、韓国を訪問したエスパー米国防長官は、アジア・太平洋地域に数ヵ月以内に最新型の中距離ミサイルを配備したいとする構想を発表した。エスパーの発言が衝撃的とも言える波紋を呼んだことは言を俟たない。これに対し、中国共産党系メディアの『環球時報』は8月5日にこれ以上ない形で米国の中距離ミサイル配備構想を罵倒すると共に、中距離ミサイルの配備候補地域となりかねない日韓両国に対し強烈な恫喝ともとれる警鐘を鳴らした。その骨子は今後、日韓両国が米国の中距離ミサイルの導入を決断することがあれば、中国とロシアは両国を敵と見なす。同ミサイルの導入はそれゆえ両国にとって自傷行為である。もし導入を決断することがあれば、かつて米国のINFを導入した西欧のNATO諸国が経験した以上の脅威に曝されるであろう。中国とロシアは連携し断固たる報復に打って出ると言明したのである。『環球時報』に掲載された警告を踏まえたとき、7月23日に中露両国が共同軍事訓練を行い、日韓間で係争中の島根県の竹島の領空にロシア軍用機が入り込んだ事件が想起される。ロシア軍用機による竹島領空侵犯は明らかに日韓両国への牽制であったと位置づけられよう。
他方、この間も北朝鮮による核ミサイル開発は間断なく続いている。北朝鮮が保有すると見られる弾道ミサイルの総数は約1000基を数えるとされ、その圧倒的大部分は短距離ミサイルなどである一方、中距離ミサイルの数は200から300基に及ぶとされる。その多くは射程距離約1300キロ・メートルのノドン・ミサイルであるが、この他に射程距離約1000キロ・メートルのスカッドER、射程距離約2000キロ・メートルの「北極星2」号、さらには米領グアム島を射程内に捉える射程距離約3700キロ・メートルの「火星12」型などが中距離ミサイルに含まれる。加えて、金正恩指導部が2019年5月に短距離弾道ミサイルなどの発射実験の再開に踏み切った。発射されたミサイルの多くはロシアのイスカンデルの「北朝鮮版」とされ、その改良型の最大射程距離は約1000キロ・メートルに達するであろうとみなされることから、わが国の西日本地域を射程に捉えると目される。他方、北朝鮮の保有核弾頭数は2018年の時点で約20から60発程度の範囲とされるが、数年内に100発に増大するであろうと推測されている。金正恩が目論んでいるのはインドやパキスタンのように事実上の核保有国として認知されることであり、したがって北朝鮮の非核化はまやかしで終わる可能性が極めて高いことはもはや既成事実になった感がある。
上述のとおり、中国によると南シナ海の南沙諸島での人工島建設とその「軍事拠点化」と並行して進む様々なミサイルの配備や東シナ海への進出は、わが国にとって極めて気がかりなことである。このことはなによりも莫大な量の物資を輸送する貨物船や石油タンカーの海上輸送路が中国によって脅かされる危険性があるからに他ならない。海上輸送路の安全確保のためにはそうした脅威を断ち切る必要があり、そのための対策を真剣に模索しなければならない。これまで南沙諸島での中国の横暴な振る舞いに対し米海軍は「航行の自由」作戦をしばしば行ってきたが、必ずしも効果があったとは言えない。その間も上記の人工島建設と「軍事拠点化」は黙々と進んでいる。こうした強硬な中国の行動を担保しているのが中距離核戦力の急速な拡充である。そうした動きに真っ向から対抗するためには、アジア・太平洋地域に米国による中距離ミサイルを展開することも真剣に検討される必要があると言えよう。こうした認識の下で、米国が日本と中距離ミサイル配備の協議を始めることになった。10月18日に米政府高官は日本を訪問し、外務省や防衛省の幹部と中距離ミサイルの導入について意見交換を行ったとされる。今後、日本政府はこの課題についてどのように進めるべきであると考えているのであろうか。(おわり)
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