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2019-10-03 00:00
日中韓三国協力の課題と可能性
菊池 誉名
日本国際フォーラム主任研究員
さる8月21日、中国・古北水鎮にて、日中韓外相会議が開催された。2016年8月の東京開催以来、実に3年ぶりの開催である。首脳レベルでは、昨年5月に約2年半ぶりに東京で日中韓サミットが開催され、本年もきたる12月に中国で開催される予定である。これら首脳、閣僚級レベルの会合は、二国間、三国間の政治的な対立から度々延期されてきた。現在、日韓関係が厳しい状況にあるなかで、こうして継続的に三国間の首脳レベルの会合が開催されようとしていることは注目に値するものである。日中韓三国の枠組みは、1999年のASEAN+3(APT)首脳会議の際に、日中韓三国首脳が朝食会という形で初めて一同に会したことから開始された。つまり本年はそれから20年目を迎えているわけであり、この成人の年齢を迎えた日中韓三国の枠組みが、さらなる進展を遂げられるのかどうかは、地域協力・統合の観点からも重要な関心事である。以上の問題意識のもと、本稿は、日中韓三国の政府間枠組みを中心に、三国協力の現状を考察し、今後の可能性について探ろうとするものである。
まず、この20年間を振り返ると、日中韓三国においては、21の閣僚級会合をはじめ、高級実務者会合(SOM)、局長会合(DGM)などを含めて70以上の三国政府間枠組みが制度化され、それらのもとで、環境、経済・貿易、農業、教育、原子力、防災分野などにおける機能的協力について協議が行われてきた。また2012年からは三国間FTA交渉もはじまっている。なかでも環境分野の協議は進展しており、日中韓三国環境大臣会合(TEMM)は、三国枠組みの中で唯一99年から毎年一度もかくことなく開催され、2015年に採択された「環境協力に係る三カ国共同行動計画」のもとで3Rなどの資源循環利用が進められようとしているところである。このように、一見すると三国協力が著しく進展しているようにもみえるが、APTにおいてチェンマイ・イニシアチブなどをはじめとする地域制度が形成されて実施的な協力が進んでいることからくらべると、日中韓三国協力はまだまだ協議レベルで終始しているのが現状である。また、三国間の安全保障メカニズムの整備も進んでいないという課題もある。
他方このような課題を抱えつつも、昨年5月に東京で開催された第7回日中韓サミットの共同宣言では、今後の三国協力として「三か国+X」の協力を探求する、という新たな概念が打ち出された。この新しい概念は、さる8月の日中韓外相会議でより具体化され、三国の間で「『三か国+X』協力に関するコンセプトペーパー」が採択されたところである。同ペーパーでは、今後日中韓三国は、ウインウインなどの原則のもと、特に経済や貧困削減などにおいて、日中韓の三国に他国や他分野も加えた協力を探求していくことが述べられている。日中韓三国にとって、このことは重要な進展であり、今後この概念を軸にして、三国協力が拡大されていく可能性がある。というのも、例えば、日中韓三国でそれぞれ推進しているRCEPにおいて、「『三か国+X』の協力」のもとで三国が協力し、その交渉を加速させることができれば、年内の妥結に向けて大きな力になるだろう。また、現在三国は、日本の「自由で開かれたインド太平洋構想」、中国の「一帯一路構想」、韓国の「新南方戦略」というように、それぞれがアジアにおける地域構想を打ち出している。しかし、例えば中国の「一帯一路」構想に対して、日本は条件が満たされれば参加可能と表明しているように、これらの構想は、特に経済的側面において重複する部分も多い。そのため「『三か国+X』の協力」の概念を軸にして、これらの構想を協調させ、かつ相互に深化させていくことができれば、地域の安定・繁栄に多大な貢献をすることができるのではないか。
このように、日中韓三国協力は、課題を抱えつつも、「『三か国+X』の協力」のもとで、協力関係を進展させることができる可能性を秘めているという状況にある。こうしたなかで重要になるのは、三国において、地域の将来に向けたビジョンを共有していくことであろう。ではそのビジョンとは何か。東アジアにおいては、東アジア共同体の構築を目指すというビジョンがあり、地域枠組みであるAPTや東アジア・サミット(EAS)において、それぞれ将来的な目標として掲げられている。日中韓三国においても、2010年の日中韓サミットで締結された「日中韓三国間協力ビジョン2020」などにおいて、三国協力が東アジア共同体に向けて積極的な役割を担うことが確認されている。そのため、日中韓三国においては、東アジア共同体という目標を三国協力の基礎として、さらなる関係強化を進めることも重要になってくるのではないだろうか。
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