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2019-10-03 00:00
(連載2)在韓米軍撤収の可能性と核保有の示唆
斎藤 直樹
山梨県立大学教授
文在寅は2019年8月15日の光復節の慶祝式典において2045年までに南北統一を完遂したいと声を張り上げた。文在寅曰く、「・・2045年の光復百周年までには平和と統一で一つになった国として世界の中でしっかりと立つことができるように、その基盤をしっかりと固めると約束する。」こうした中で、文在寅の側近の文正仁(ムン・ジョンイン)大統領統一外交安保特別補佐官は9月8日に南北統一に向かう道筋ついての私見を示した。「北朝鮮との統一の第一段階において韓国政府は『二つの国家の中に一つの民族が存在する』ということに留意し、二つの政治システムと二つの独立政府を保持すると同時に、二国間の協力を強化し、北朝鮮と韓国のヒトとモノの流れの自由な往来を促進させる意図がある」とし、そのうえで「経済統合を通じてEUのように双方の発展を保証し、その後徐々に両国を『本格的に』統一する」と文正仁は述べた。EUをモデルに韓国主導の経済統合を進めるべきであると提唱する文正仁の発言からは、経済統合の延長上に南北統一が実現するような印象を受ける。
文正仁が金正恩を誘うようなアドバルーンをあげているが、こうした提唱は金正恩の目にはどのように映っているであろうか。文正仁はEUをモデルに経済統合というが、経済統合の前提として人、モノ、金、情報の自由な流れが確保されなければならないが、そうした自由な流れほど、金正恩の一人独裁体制に脅威を与えるものはない。かりに自由な流れにより、北朝鮮の「人民生活の向上」は多少なりとも実現するかもしれないが、体制の存続を脅かしかねない経済統合など、金正恩にはもってのほかであろう。そうした文正仁の提唱自体、金正恩の一人独裁体制が存立する基盤を無視したものである。金日成や金正日の時代から金体制は北朝鮮の経済成長の成果を独り占めにする一方、「人民生活の向上」を後回しにしてきた。諸外国との貿易や外国からの経済支援などを通じ得られた表向きの資金だけでなく武器輸出やサイバー攻撃を通じ得た闇資金を含めてあらゆる資金を自らの体制の堅持のためにつぎ込んできた。金体制を支える朝鮮人民軍、警察、朝鮮労働党、政府幹部達など支配層への資金のばらまきを通じ体制への忠誠と支持を獲得する一方、体制に対し不満や不信感を抱く分子を強制収容所へ送り徹底的に抑圧すると共に、一般国民に対する監視や取り締まりを強化し、国民の生活をないがしろにする形で、膨大な資金を通常戦力と核ミサイル開発に投入した。
市場経済の導入についても国民が窮乏化しない程度に極力、体制の統制可能な範囲内に抑えようとしてきた。金正日時代の2002年7月に「経済管理改善措置」と銘打って市場経済の施行を思わせる措置に大々的に打って出たが、天井知らずのインフレや市場(いちば)の拡散といった想定外の事態に発展したことに脅威を感じた金正日は同措置を廃止すると共に、2009年11月にデノミを断行したとおりである。「人民生活の向上」を口癖にした金正日が何よりも恐れたのは皮肉なことに北朝鮮の経済が成長して国民の生活が向上するに伴い、政治的自由の要求へと転嫁することであった。また外資の導入による資金の流入が金体制に魅力的なことは間違いないとしても、北朝鮮の辺境の片隅に経済特区を数箇所設置し中国、ロシア、韓国などからの資本の流入が国民生活に影響を及ぼすことを極力抑えようとしてきた。曲がりなりにも金体制が存続してきた背景にはこうしたからくりがある。それに対し無定見に経済統合などと提唱するのは金正恩の猛烈な反駁を招くのは当然であろう。しかも文正仁は将来の韓国の核保有を示唆するような気がかりな私見も示している。それによると、「韓国側が核兵器を保有している場合、アメリカとの同盟の必要性はなくなるだろう。韓国はそのような兵器を持たないため(韓国で)米国の大きな影響が残されている。」文正仁の言わんとするところは、米国の影響力を削ぐために韓国は核保有をすべきであるかのように聞こえる。言葉を変えると、韓国が核武装すれば、在韓米軍は必要なくなると言いたいのであろうか。
確かに将来の南北統一を視野に捉えるとすれば、遅かれ早かれ在韓米軍や米韓同盟は南北統一を阻む厄介な存在となろう。在韓米軍が駐留すると共に米韓同盟を堅持しながら、南北統一に向かうというのはありえない話である。こうしたことを斟酌すると、文正仁は南北統一の前提条件として在韓米軍の撤収を図り、核保有を検討すべきであると問題提起しているように聞こえるのである。北朝鮮の非核化が遅々として進まない中で核ミサイルの脅威が日々増大するのと並行するかのように、在韓米軍の縮小やその撤収さえ俎上に載りかねない状況の下で、これに対処するために韓国が核武装する必要があるとの見解が出ている。その一方で、文在寅の側近は将来の南北統一を見据えて核武装が必要であるかのような発言を行っているのである。文在寅や文正仁などを始めとする青瓦台の側近達の無定見ぶりは常軌を逸していると言わざるを得ない。(おわり)
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