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2019-09-28 00:00
(連載2)文在寅の「積弊清算」と南北統一の夢
斎藤 直樹
山梨県立大学教授
徴用工訴訟を巡る韓国最高裁判決は司法府による判断であったのに対し、「レーダー照射事件」はレーダー照射が実際にあったか否かという事実関係を巡る問題である。日韓双方の主張が全く相反したことは、いずれかの側が明らかに虚偽の発表をしていたことを物語る。日本側が虚偽の発表を行ったと到底思われないことを踏まえると、事実と全く異なる虚偽を世界に向けて文在寅政権が発信していたことになろう。「レーダー照射事件」を巡る韓国側の説明の真偽が限りなく怪しいにも関わらず、架空の話を作り上げ日本側に非があるとして日本に責任を転化しようとしたと捉えざるをえない。同事件を巡る事実関係と虚偽の説明のずれが常軌を逸しているのである。文在寅政権は2019年8月22日に懸案のGSOMIAを突如、破棄する決定を行った。同政権は日本政府が韓国を「ホワイト国」から除外することにより日韓の安全保障協力を毀損した状況の下で、GSOMIAを堅持することは国益に合致しないと判断した。しかも「米国はわが政府の立場を理解している」と説明したが、トランプ政権は文在寅政権の立場を理解していたわけではない。
GSOMIAの破棄決定の可能性を案じたトランプ大統領は政権の高官達を訪韓させ、文在寅政権に再三にわたりGSOMIAの継続に向けて要請を行っていた。これに対し、文在寅はトランプ政権に何の事前通告もなく、突如、破棄決定を行っただけでなく、破棄決定についてトランプから理解があったかのように装ったのである。これがトランプを怒らせ、米国政府から「懸念と失望」を買うことになった。しかも米国政府が「懸念と失望」を表明すると、「今回の決定が韓米同盟の弱化でなく、むしろ一段階アップグレードさせるきっかけになるよう努力する」と意味不明な発言を文在寅政権が行ったことは、米国の「懸念と失望」を助長することになったであろう。GSOMIAの破棄決定を巡り事実関係を捻じ曲げ、その場逃れの釈明を重ねる結果、文在寅は自ら窮地に追い込んでいる感を与える。9月9日には数多くの醜聞にまみれた曺国(チョ・グク)の法務長官任命を文在寅は強行した。曺国の夫人が在宅起訴されている最中での法務長官への任命であった。身内に向けられた様々な疑惑に曺国は「疑惑の大半は知らなかった」の一点張りであったが、長時間に及んだ国会聴聞会で説明責任を果たしたとして疑惑の人物を文在寅が任命したことは周知のとおりである。今後、検察の改革に取り組むため、「私は私を補佐し、私と共に権力機関の改革に邁進して成果を見せた曺国長官にその仕上げを任せよう・・」と文在寅は述べると共に、「検察は検察がすべきことをし、長官は長官がすべきことをしていけば、権力機関の改革と民主主義の発展をはっきりと見せることになるだろう」とこれまた意味のよくわからない釈明を行った。
検察の権限が制度上、強大すぎるため、文在寅が師と仰いだ廬武鉉に検察による捜査の手が及んだと文在寅は考えているかもしれない。しかし、左派系の廬武鉉だけでなく保守系の李明博や朴槿恵も捜査対象となった。特段、検察が左派系の政治家だけを目の敵にしてきたわけではない。これらの大統領経験者達が捜査が及ぶような大統領としてあるまじき違法行為を行っていたことに問題があるのであり、検察の権限が強すぎたからというのは本末転倒した議論であろう。しかも曺国を法務長官に任命し、検察による政治への介入を阻止したいと文在寅が発言するが、その真意は最高裁判所だけでなく検察も支配下に置くことにより、自らの絶大な大統領権限を強化したいとしか聞こえないのである。この間の2019年8月15日の光復節の慶祝式典において2045年までに南北統一を実現したいと文在寅は熱く語った。同演説は肝心の金正恩から手厳しい批判を受けたとはいえ、文在寅は本気であった。そうした視点に立てば、GSOMIAの破棄決定が文在寅の夢見る南北統一に向けた計算づくの上の一歩であると解釈できないわけでもない。
日々露骨になっている文在寅の反日姿勢は文在寅が自ら実現しようとしている遠大な目的の実現に向けた布石として行っているのではなかろうか。すなわち、反日姿勢を前面に押し出し日本に反省、反省と声を荒げる一方、北朝鮮との融和を推し進めようとする文在寅の一連の言動は単に国民の支持を集めることだけを狙っただけでなく、一日も早い「積弊清算」と将来の南北統一の向けた布石なのではないかと思われるのである。GSOMIAの破棄決定では急場しのぎで事実関係を捻じ曲げ、責任の所在を日本になりつけようした一方、曺国の法務長官任命では私益のためには手段を選ばなかったように、実に軽薄な人間に文在寅は映る。しかしその実、絶大なる大統領権限を振りかざし、自らの任期後を見据えて20年にも及ぶ支配体制を確立し、そのうえで自らの最終的な夢の実現を完遂しようとしているようにも映る。そのように見れば、文在寅を突き動かしているのは一刻も早い「積弊清算」の完遂であると共に、南北統一の実現なのであろう。(おわり)
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