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2019-09-21 00:00
(連載2)「徴用工問題」を考える
斎藤 直樹
山梨県立大学教授
首相や外相によると、同訴訟の原告が募集に応じた人達であったことになる。ということは、募集に応募した人たちを「徴用工」として韓国大法院は最終判決を行ったことになる。もしそうであるとすれば、同裁判の前提となった「強制徴用の被害者への慰謝料請求権」の土台が崩れかねないことを意味する。他方、2019年1月10日の年頭記者会で文在寅韓国大統領は「政府は司法府の判決を尊重しなければならない」と、三権分立を立場から司法府の判断を尊重し、日本企業に賠償金の支払いを命じた韓国大法院による判決を支持した。その後、同問題の解決に向けて請求権協定の定めるとおり、日本政府は二国間協議を求めがこれに文在寅政権が一向に応じないため、仲裁委員会の設置を再三にわたり要求したが、文在寅側は検討中という言葉でお茶を濁し続けた。これに日本政府側の忍耐が限度を超えたことは間違いがない。7月18日の仲裁委員会設置の期限を迎えた翌日の19日に河野外相は南官杓(ナム・グァンピョ)韓国駐日大使を呼び出し、「・・韓国政府が今行っていることは、第2次世界大戦後の国際秩序を根底から覆すものに等しい。一刻も早くこの状況を是正する措置を取ることを強く求める」と抗議した。
これに対し、同問題は「・・民事事件であって、どのように対処されるかは当事者間の意思次第である」と南官杓は反駁した。その上で、南官杓は文在寅政権が6月に提案した、日韓関連企業が原告に慰謝料として拠出金を支払うとする韓国提案に戻るべきであると論じた。これに対し、「・・提案は全く受け入れられないと以前に伝えた。それを知らないふりをして極めて無礼だ」と河野は断じたのである。上記の韓国提案自体、国際条約である同請求協定を毀損することになりかねない。文在寅の狙いはそこにもあったのであろう。他方、7月1日の日本の輸出管理の見直しに激怒した文在寅政権が日韓GSOMIAの破棄決定を行ったのは周知のとおりである。その後、日本による韓国の「ホワイト国」除外が8月28日に施行されると、文在寅は29日に大統領府での閣議で本音ともつかぬ言葉で日本側を罵倒した。文在寅曰く、「過去を記憶し省察することに終わりはない・・一度反省の言葉を述べたから反省は終わったとか、一度合意したからと言って過去を過ぎ去ったものとして終わらせることはできない」と日本側を罵倒した。自分の思うとおりに日本政府が対応してくれないとなると、日本に対しまたしても反省、反省と文在寅は声を荒げているのである。
ところで、文在寅が「一度反省の言葉を述べたから」としたのは、1993年8月の「河野談話」で当時の河野洋平官房長官が「・・お詫びと反省の気持ちを申し上げる」としたことや、1995年8月の「村山談話」で村山首相が「・・痛切な反省の意を表し、心からのお詫びの気持ちを表明いたします」としただけでは終わらず、これからも日本側はお詫びや反省を繰り返せと言いたいのであろう。また「一度合意したから」とは、請求権協定を指していると思われるが、「完全かつ最終的に解決された」とされるこの合意では文在寅にとって不十分であり、政権の度に合意が必要であると言っているような心証を与える。請求権協定は1965年6月に佐藤栄作内閣と朴正煕(パク・チョンヒ)政権の間で結ばれたが、政権が交代すれば、日本は韓国の新政権と同様な協定を結ばなければならないのだと言わんとしているのであろう。こうした発言を繰り返す人物が一国の最高権力者にあるかぎり、解決に多くの期待は難しいであろう。
同請求権協定は国家と国家が合意した国際条約であり、一方の政権が代わろうが条約は次の政権に継承されなければならないことは言を待たない。そうでなければ、国家間で結ばれた同様の条約の有効性そのものが怪しくなりかねず、国際条約の存立基盤が失われかねない。したがって、上記の河野太郎外相発言による通り、原告への補償は韓国政府が対応に当たるべき案件である。現在の状況は日本政府がしばしば言及しているところの「国際法違反の状態」であり、これを是正するのは韓国政府である。9月13日に、茂木外相は「国際法違反の状態を一刻も早く是正することを引き続き強く求めていく」とし、文在寅政権に是正の行動を求めているとおりである。この間、大法院の判決に基づき、韓国の原告側が日本企業の差し押さえ資産を現金化する手続きを進めている。こうした動き自体が同請求権協定を毀損するものであり、今後、企業に実害が発生するようなことがあれば、日本政府が対抗措置を講ずるとしているのは当然の対応であろう。(おわり)
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