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2019-09-13 00:00
(連載1)GSOMIAの破棄決定と無関心を装う文在寅
斎藤 直樹
山梨県立大学教授
文在寅政権による8月22日の日韓のGSOMIA(軍事情報包括保護協定)の破棄決定は、日本政府だけでなく米国政府に少なからずの衝撃を与えた。GSOMIAは11月23日に失効するが、そのGSOMIAとはどのようなものであり、どのような役割を果たしてきたであろうか。GSOMIAは2016年11月22日に朴槿恵政権と安倍内閣の間で締結された。米韓相互防衛条約に標されるとおり、韓国と米国は同盟関係にある一方、日米安保条約に標されるように、日本と米国も同盟関係にある。前者が米韓同盟であり、後者が日米同盟であると言われる所以である。とは言え、日韓同盟という言葉は聞かないとおり、日本と韓国にそうした同盟関係があるわけではない。しかし近年、北朝鮮の核ミサイル開発が一段と進む中で日韓の間で軍事上の情報共有の必要性が増してきた。と言うのは、ミサイル発射を巡る一刻を争う状況の下で軍事情報を交換する必要があるからである。実際に2016年11月のGSOMIAの締結以来以降、29件に及ぶ情報が交換されてきた。日本側は主に人工衛星による写真情報を韓国に提供してきた一方、韓国は主として脱北者など人間を介した情報を日本側に提供してきた。2018年の終りからも、7件に及ぶ情報交換が行われた。これはなによりも北朝鮮の核ミサイルの脅威が近年増大する中で情報交換を通じた日韓の情報共有が重要であるという認識に基づく。
このGSOMIAが失効すれば軍事情報上、重大な支障をきたすかといえば必ずしもそうではない。と言うのは、北朝鮮による弾道ミサイルが発射された際、韓国は米国から人工衛星による情報の提供を受ける一方、日本も自前の人工衛星情報に加え米国から同様の情報の提供を受けることにより、ミサイル発射への対処を行う。その意味で、GSOMIAを通じた情報共有が失われるとはいえ、それだけでミサイル発射への即応態勢がおろそかになるわけでないかもしれない。とは言え、北朝鮮の核ミサイルの脅威に共同対処する重要な情報交換のルートが遮断されることになる。加えて、北朝鮮による核ミサイルの脅威の増大に対して日米韓三国の連携が叫ばれている中で、その連携が少なからず影響を受けることになりかねない。このことはGSOMIAが三国間の安全保障上の連携にとって象徴的な役割を果たしてきただけでなく、朝鮮半島有事が実際に生じることになれば、その対処に深刻な支障をきたしかねないからである。
もしも何らかの事由で朝鮮人民軍が韓国を侵攻するといった事態が今後、発生するとすれば、そうした侵攻に即座に対処するのは韓国軍である。これに続いて、在韓米軍が出動する。両軍は米韓連合軍として事態の対処にあたることが想定される。その際、前線の在韓米軍の後方支援の役割を在日米軍が果たす。在韓米軍と在日米軍は区別して考えられがちであるが、実際の有事では在韓米軍と在日米軍は連携する仕組みとなっている。在韓米軍を構成する兵員、陸軍、海軍、空軍、海兵隊の戦力は必ずしも大規模でないが、戦闘が長期化することを想定して、戦闘が行われている最前線にたえず増援が行われることが想定されている。その増援規模は米兵員が約70万人、米艦艇が約160隻、米軍用機が約2000機相当の大規模な戦力である。そうした増援で鍵を握るのは日本政府であると目される。日本の在日米軍基地は後方基地としての役割を果たすことになる。その際日本側の協力がなければ、円滑かつ迅速な増援は困難となろう。こうしたことから、米韓間や日米間だけでなく日米韓三国間の日頃からの情報共有が必要となるのである。
このように朝鮮半島有事の際には、日米韓の三国間での連携が不可欠である。GSOMIAの破棄により、単に日韓間の情報交換が途絶えるだけではなく三国間での連携に支障をきたすのは動かしがたい事実である。しかもGSOMIAの破棄決定に伴い案じられるのは今後、在韓米軍の縮小やその撤収といった問題が俎上に載るのではないかということである。この間、北朝鮮による核ミサイル開発に全く歯止めが掛かっていないことは警戒を要するところである。2018年6月に第1回米朝首脳会談が開催された際、金正恩朝鮮労働党委員長はトランプ大統領を前にして北朝鮮の「完全な非核化」を約束した。ところが、非核化に向けた動きは遅々として進んでいないことは周知の通りである。2018年の段階で北朝鮮の核兵器の保有数は20から60発前後と推定された。非核化が一向に進まない中で、その後核兵器10発分に相当する分量の核物質が増産されていると推測されている。(つづく)
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