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2019-08-30 00:00
鉄腕アトムに戦争を決心させるな
伊藤 洋
山梨大学名誉教授
22日の日経新聞の報道によると、人工知能(AI)を搭載し、自らの判断で敵を攻撃する「AI兵器」を議論する国連公式専門家会議は同日、兵器使用の責任は人間にあることなどの指針を盛り込んだ報告書をまとめた。つまり、第一次世界大戦が<サラエボの一発の銃声>から始まったという歴史上の事実からすれば人工知能に「一発発射」の判断を任せるわけにはいかない、ととりあえず国連安保理事会は議決するということらしい。しかし、こういう討論をしなくてはならない程に今や物騒な兵器が天空を飛翔しているのであろう。これこそ現代の「ダモクレスの剣」である。
今やAIなるものを新興宗教のご本尊のように持ち上げているが、要は「ビッグデータ」と呼ぶ過去の人間世界の在りとある行状を分析して、その「多数決」をもって「結論」とするというに過ぎない。しかも、その推考過程は確率的であって再現性が保証されない。つまり、唯一性を保証する決定論的世界ではない。
先の8月14日に西日本に禍を持ち来たった台風10号。その1週間前、それがまだフィリピン海域にあったころ、アメリカの気象用人工知能は熊野灘付近で太平洋高気圧のへりに沿って急に右旋回すると予知していた。他方、EUのそれは同じ海域で、左旋回を予想した。両システムとも、過去の気象データから判断したに違いないが、その扱いの違いによって文字通り180度の相違を見せた。結果としては、台風10号はやや左に経路を取ったもののほぼ真っ直ぐに北上して島根県沖に抜けていった。この間違いは、正確な気象データの蓄積数が限られている中で行う判断の限界であろう。人類にとっては比較的によく蓄積されている気象データにして、こういう誤りを生み出す。まして、人類が為した無数の判断ミスだらけの歴史、権力者に都合の良い歴史記述、まして現今、日本の政権のように自らがなした行為を、改変・隠蔽・廃棄したりするような欠陥だらけの判断結果をビッグデータとして人工知能に判断させた結論が適正である保証はまったく無い。
人間性善説に立とうが性悪説に立とうが、その発生からここまでその進化の因を闘争にゆだねてきた人類、その過去のデータから最適な次の行動を選ぶとしたところが所詮それは神意に適うものではありえまい。人工知能を過信しないこと、まして鉄腕アトムに戦端を開く判断をさせるなどもってのほかの所業であるというべきである。
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