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2019-08-28 00:00
(連載2)金正恩による軍事挑発と暗転する朝鮮半島情勢
斎藤 直樹
山梨県立大学教授
韓国側による警告にも関わらず、8月に入り北朝鮮の軍事挑発はいよいよ佳境に入った感がある。8月2日にまたしても短距離飛翔体が2発発射された。韓国合同参謀本部は2日の早朝に日本海に面する永興(ヨンフン)付近から日本海方向に向けて短距離飛翔体が発射されたと発表した。度重なる軍事挑発に対し、「短距離は何の問題もない」と別段、気に留めることはないとトランプは語った。こうした発言は7月25日の軍事挑発の際にも気に留めないとトランプが述べたことを想起させた。こうした中で8月5日に米韓合同軍事演習が予定通り開始された。同演習の骨子はコンピューター・シミュレーションを通じた指揮所演習であり、その後指揮所演習に続き在韓米軍から将来、韓国軍へ戦時作戦統制権が移管される状況を想定した訓練を行うことが予定された。5日に始まった米韓合同軍事演習に猛反駁するかのように、金正恩指導部は6日に短距離飛翔体の発射実験を強行した。黄海に面する黄海南道(ファンヘナムド)のクァイル付近から北朝鮮上空を横切り、日本海方向に短距離飛翔体を二度発射させた。
さらに4日後の8月10日の早朝に、金正恩指導部はまたしても短距離飛翔体を二度発射した。今回は日本海に面する咸興(ハムフン)から日本海方向に向けてであった。こうした中で急遽、対応を迫られたトランプは8月9日に前日の8日に金正恩から親書を受け取ったと発表した。トランプによると、親書は「とても美しい手紙」であり、「とても前向きな内容の手紙だった。」米韓合同軍事演習を「金正恩は好ましく思っていない」とし、「私も好んだことはない。なぜか。そのための費用を支払いたくないからだ」と、何とも意味不明なコメントをトランプは披露すると共に、「もう一度言うが、核実験は行われていない。行われたミサイル試験はすべて短距離だった。弾道ミサイルや長距離ミサイルの試験は行われていない」と、低次元の軍事挑発を特段、問題視することはないとした上で、「我々はまた会合を開くと思う」と、米朝首脳会談の開催に前向きな姿勢を示したのである。トランプは一貫して平然を装ったが、金正恩を宥めるメッセージをこのタイミングで発しないと、軍事挑発がさらに続きかねないことに危機感を募らせたとも考えられる。
7月25日に金正恩指導部が「新型戦術誘導兵器」として短距離飛翔体の発射実験を行って以降、7月31日と8月2日には「大口径操縦ロケット砲」、6日には「新型戦術誘導弾」、10日には「新しい兵器システム」という名称の下で短距離飛翔体の発射実験を立て続けに強行している。この間、トランプは金正恩と極めて友好的であることをアピールしている。2020年の大統領選での再選を果たすため米朝関係の改善を最大の外交成果の一つとして位置づけるトランプとすれば、北朝鮮の「完全な非核化」の完遂に向けた実質的な合意を達成したいところであろう。核実験や長距離弾道ミサイルの発射実験が行われていないとトランプは事あるごとに発言しているとは言え、非核化交渉において安直な譲歩を行うことがあれば、米国内で民主党を中心とする勢力やメディアから激しく叩かれることになりかねない。こうしたことから、トランプは常々金正恩が合意に応じる準備ができるまで非核化交渉を急ぐことはない一方、経済制裁は継続しているとの姿勢を崩していない。
これを良いことに、金正恩指導部は短距離飛翔体の発射実験をこれでもか、これでもかと繰り返している感がある。北朝鮮メディアは飛翔体について上述の通り様々な名称を使っているものの、その多くが5月4日と9日に発射された、元々ロシアが開発したイスカンデルの北朝鮮版とも言える短距離弾道ミサイルではないかとみられている。いくら文在寅が金正恩に融和的姿勢を取り繕うとしても、韓国領土のほぼ全域に直接脅威を与えかねない高性能の短距離弾道ミサイルの実戦配備に向けて着実に開発が続いているのが現実である。しかもこの間、上述の通り、「元徴用工問題」や輸出管理の見直しを巡り日韓関係は戦後最悪とも言える状況にある。こうした日韓関係の齟齬を突くかのように、軍事挑発を通じ金正恩が揺さ振りを掛けていることに加え、その背後から中露もまた揺さ振りを掛けようとしている印象を受けざるを得ない。この間、対日対抗措置の発動と韓国内での反日世論を煽ろうと躍起になっている文在寅ははたしてこうした厳しい状況を的確に把握しているであろうか、深刻な疑義を持たざるを得ないのである。(おわり)
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